第29話すっ、すっ、すっ
神がいれば悪魔もいる。
当たり前の話だろう。
そして、氷室麗華と天上彩音が今二人そろって体育倉庫にいる事はどう考えても悪魔の仕業でなければ誰の仕業というのだ。
そもそも本来氷室麗華を毛嫌いしていた彩音が、どんな交換条件を出せば結託するというのか想像もできない。
万に一つあるとすれば、それは氷室麗華が彩音を暴力で上回ったという事なのだが、そうなれば二人は無事でいられる筈がない。
どちらか片方、又お互いに病院送りになっているはずであるのだが、今現在傷一つ見当たらない二人を見るに、その考えは間違っている事だけは確かだ。
「こ、ここここ、子供ぉおおっ!? あ、あなたねっ!! 私達にはまだ早すぎるわよっ!!」
「でも健介君の赤ちゃんは欲しいでしょう? それが何年先になるかは分からないけれども、少なからず異性に興味があると分かっただけでも私はありがたいわね。 だって健介君は、自分で言うのもなんですがこの学園ツートップである私や彩音さんはアプローチして反応しないどころか気づきすらしないじゃないですか。 それってもしかしたら異性に興味がない、または性欲が極端に低いのでは? と少し考えてしまっていたものですから。 もちろん、だとしても私はどんな手段を使ってでも健介君の子種は必ずもらい受けるつもりでしたけれども、健介君の性の対象が普通の人と同じように異性に興味があると分かってほっとしたのも本当よ」
「そう言われてみれば確かに。あいつ私が長年アピールしても全く成果が見られなかったしね」
『確かに』じゃねえよっ!! 氷室麗華も、なにサラッと恐ろしい事を言ってんだよっ!! あの勢いならば拉致監禁など当たり前だと思っていそうなんですけれどっ!? そもそも何で二人は俺の子どもが欲しいんですかねっ!? 子供を出汁にしてとかそういう感じですかっ!? 有能なATМとして死ぬまで搾り取ろうという魂胆ではっ!? 彩音に関してはあり得そうで余計に怖いわっ!! そもそも俺は高木さんのような人と普通の家庭を築きたいんですけれどもっ!?
「あれ? 健介の様子がさっきからおかしくない?」
ひいぃいっ!! 高ぶった感情が漏れてしまっていたのか畜生めっ!! 俺は石。俺は石。俺は石。
「気のせいじゃないかしら? 目のハイライトも消えてるし。 取り敢えず時間は有限ですので催眠術にかかっているかの確認のついでにさっさと始めてしまいましょう」
「それもそうね。 じゃあ、取り敢えず健介。 壁を背もたれにしてマットの上に座って」
すっ、すっ、すっと、俺は命令されたように行動に移す。
人間ピンチになると本来眠っていた力が発揮されるとよく言うのだがこの時の俺がまさにそうだろう。
我ながら想像以上に完璧な、全ての感情を殺した見事な動きである。
「うん、どうやら私の気のせいみたいね」
「それでも万が一催眠術に耐性がついてしまい効き目が弱くなってしまう可能性もあるわ。 疑って損は無いわね」
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