第28話とんだピエロだぜ

 まさか、彩音に随時監視されているような環境で他の女性、それも高木さんとの連絡先を交換できる日が来ようとは、いったい誰が想像できただろうか。


 そもそも俺の親に俺の事を頼まれたからとか昔から口癖のように言っては干渉してきているのだが、正直異性との連絡先交換まで口を出されては、たまったものではない。


 しかもここ最近では俺の両親がいない事を良いことに半同棲みたいな生活をしており、毎日息が詰まりそうな程息苦しい日々を過ごしているのだ。


 こんな俺に彩音の監視を掻いくぐり、高木さんと連絡先交換ができたのだ。


 何がなんでもこの連絡先は死守しなければならない。


 そう俺は強く心に誓いながら、どこか浮ついた足取りで氷室麗華に呼ばれた体育倉庫へと向かうのであった。





 神はいた。


 確かに神はいたのだ。


 しかしながらそれは悪魔がいる事の証明でもあるという事を、俺は失念していた。


「また体育倉庫の掃除ですか? 氷室さんも大変っすね。 でもそろそろ俺じゃない別の人でもいいんじゃないかなぁーなんて。ははは……」


 そう暢気に喋りながら俺は体育倉庫へと入っていく。


 催眠アプリにかかっている体で演技をしなければならず、今の自分はあいつらからすればバカ丸出しのいじめがいのある玩具だとでも見えている事だろう。


「今日も手伝ってくれてありがとう。 でも、先生に一緒に片づける人を高城君と名指ししてしまったから他の人は無理だという事を謝罪するわ。 その代わり後でお礼をたっぷり、してあげるからそれで勘弁してちょうだい」

「はははは……わーい。 お礼って何だろう。楽しみだぜーー」

「それは後のお楽しみ。 とりあえずそこで立ちっぱなしではできる事も出来ないので早く中に入ってきなさいな」

「そ、それもそうだな……………………は? なんで?」


 はは、とんだピエロだぜ。


 そう思いながら体育倉庫へと入り、氷室麗華がいる場所へと向かうと、跳び箱の裏から天上彩音が出て来るではないか。


「あ、彩音? どうして……………………?」

「とりあえずこのスマホの画面を見なさい」


 彩音が問答無用でスマホ画面に映っている催眠アプリの催眠用魔方陣を見せて来るのと同時に氷室麗華が体育倉庫の扉を閉めるのが見えた。


「ほんと、良くこんな子供だましみたいなものに毎回毎回馬鹿の一つ覚えみたいに引っかかるわね」

「でもそのお陰で私たちは美味しい思いが出来ているのだから感謝しないといけないわ。きっと健介君は純情でピュアな人なのよ」

「えぇー、こいつそう見えてむっつりスケベだよ?」

「あら、そうなの? そしたら子作りにはなんら問題はなさそうね」


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