第30話ただの拷問ではないか

 もし催眠術がでたらめで、なんの効力も無いでたらめなアプリであり、そしてそんなアプリの催眠術にかかるわけも無く俺が常に素面であるとバレたら、いったいどうなるのだろうか?


 そんな疑問が頭に過る。


「もし催眠術に耐性が付いたりして効果が薄くなっていて私たちが行ってきた言葉バレた暁には今までの記憶が、そうね……産まれてから今までの記憶全て無くなるまで殴り倒して、そして私達は小学生のころから相思相愛のカップルという新しい記憶を植え付けるまでよ」


 どうやらその場合はメスゴリラによって記憶が無くなるまで殴られるようである。


 え? 普通に嫌だ。


「あら、その時は当然私も小学生のころから恋人だったいう事にしておいてくださいね」

「え? 普通に嫌なんですけど」

「だったら今までの事を懇切丁寧に教えてあげるまでね。 そしたら彩音さんは悪者で、その悪者から救い出した私が女神のように思えてしまう事でしょう。 それに、貴女の好きな健介君は女性二人を幸せにできない程の甲斐性なしなのでしょうか? 私はそうは思えません」

「あ、当たり前じゃないっ! 女性二人だろうとも二人纏めて幸せにできる甲斐性ぐらいは持っているものっ!!」


 バカである。


 天上彩音は救いようのないバカであった。


 きっと今まで頭より先に手足が出てしまったせいで脳は成長せず筋肉ばかりが脳に詰まっていたのだろう。


 そんな彩音にすらパシリにされている俺っていったい、何なのだろうか。


 何故だか涙が出そうになって来たのであまり考えないよにしよう。


「では、私は左サイドに座らせて頂くわね」

「オッケー。 なら私は右側ねっ!!」


 そして二人の会話は終わったのだろう。


 左に氷室麗華、右に天上彩音が俺を真ん中にして挟むように座って来る。


 それと同時に尾行をくすぐって来る女の子特有の甘い匂いで思考が定まらなくなりそうになるのだが騙されてはいけない。


 左に座っているのは女狐であり右に座っているのはメスゴリラなのだから。


 ふに。


 ふにふに。


 そう必死に自分自身に頭の中で言い続けていると、両腕に柔らかく、そして温かい何かが当たってる感触が伝わって来るではないか。


 駄目だっ! 俺の理性っ!! その柔らかな物が何なのか考えては駄目だっ!! 事が終わるまで何も考えずにただじっと天井のシミでも数えていれば良いっ!!


 さすがに今まで一対一であったのだが二対一ともなれば単純計算で誘惑は二倍となる。


 ここで煩悩に任せて動いてしまうとどうなってしまうかは火を見るより明らかなため俺は死ぬ気で煩悩を抑え込む。


 これではただの拷問、蛇の生殺しではないか。

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