第17話そんなちゃちなもんじゃ断じてねぇ
「こら、氷室さんじゃなくて麗華ちゃんでしょう? も、もしお嫌でなければ麗ちゃんとかニックネームで呼んでいただいても、むしろそちらの方が──」
「れ、麗華ちゃんのお弁当おいしいなぁー……」
さりげなくニックネーム予備を強要されそうになったため、それだけは阻止するために俺は下の名前で呼ぶ。
初めから俺に名前を呼ばないなどという選択肢などなかったんだ。
畜生。
「あ、当たり前です。 なんてたって私の愛情が隠し味にいっぱい入っているんですからっ……きゃ、恥かしい事言わせないで下さいっ」
誰か俺をこの地獄から助け出してくれっ! それが無理ならばいっそ一思いに殺してくれっ!! 誰か今すぐ俺を殺してくれーーっ!! そもそもお前から言ったんだろうがーーーーっ!!
そう強く願うも当然助けなど来るはずも無く、当然殺しに来る奴等もいるはずも無く、ただ一人俺はこの地獄の様な空間で精神をゴリゴリと削られながら耐え忍ぶのだが、そんなものこの後の展開と比べればまだまだ序の口であると思い知らされる。
「じゃあはい、あーーん」
しかしそんな俺の心情など知る由もない氷室は更に追い打ちをかけるかの如く初手からダメージの大きい攻撃をかましてくる。
当然のごとく俺の精神も大ダメージを喰らい、ヒットポイントはゼロ飛んでマイナス。
そんな俺には最早抵抗する気力など有ろうはずもなく、ただ、氷室が望むようにただ無心になり餌を待つひな鳥のごとく口を開く。
「あーーん」
「ふふ、なんて幸せな時間なのでしょうか。 まるで夢のようですね」
「……」
「ケイちゃんはどう?」
「とっても楽しいよ、麗華ちゃん」
「ふふふ、それは良かったわ。因みに今は幸せかしら?私?私は勿論幸せですっ!」
「はい、とっても幸せだよ。 麗華ちゃん」
神は人間には乗り越えられる試練を用意し、それを乗り越えて成長していくようにされているという話を聞いたことがある。
もしこの世界に神がいるのならば俺は問いたい。
この試練はあんまりではないかと。
頭がどうにかなりそうなんだ。
乗り越えられるとか乗り越えられないとか、そんなちゃちなもんじゃ断じてねぇ。
試練などとは別のもっと恐ろしいものの片鱗を味わっているようだぜ。
「ご、ご馳走様」
「はい、お粗末様です。 美味しかったですか?」
「はい、美味しかったよ、麗華ちゃん」
「じゃ、じゃぁ明日から毎日お弁当作ってきてあげるから楽しみにしててね」
どうやらこの地獄の様な試練は明日から卒業まで続くことが決定したみたいだ。
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