第12話スマホ画面によって見事に霧散した
そして俺はただでさえ機嫌が悪そうな彩音の機嫌を損なわぬように、彩音の言うとおりにリビングのソファーへと座る。
一体これから俺はこの傍若無人の四字熟語が着て歩く様な彩音に何をされるのか、想像するだけで恐怖が襲って来る。
彩音の事である。
ドロップキックの練習とか言いながらソファーに座っている俺へ飛び蹴りをして来てもなんら不思議ではない、むしろ容易に想像出来るところがなお恐ろしい。
何故俺の両親はこんな脳みそ筋肉と本能と欲望と暴力しかない生き物を俺の世話係にしたのか、小一時間問い詰めてやりたい気分である。
このままの勢いで大人になれば金と酒と異性とギャンブルがつきそうな勢いである。
そもそも俺に世話係として任命するのであれば人として真っ当な思考回路と常識を教え、躾終わってから任命して欲しいものだ。
これでは彩音が俺の世話をするのではなくて俺が野生のゴリラの世話をしているだけではないか。
世話の代金として日給一万以上は要求しても良いレベルだと俺は思う。
そもそも命の危険がある仕事の時点で高給でなければならない筈だ。
「よ、よし……座ったわね」
「言われた通りに座ったけど何をこれからするんだよ? 痛いのは嫌だぞ?」
「い、痛い事ってまさか私の初めてを……ってそんなんじゃないってっ! このエッチ! スケベ!変態
!! そんなんじゃいつまでたっても結婚できないわよっ! この童貞野郎っ! ま、まぁ私がいるからごにょごにょ……」
殴っていいか?
殴って良いよな?
もうやり返されるのが怖いからとか言ってられないレベルまで来ている。
死ぬまでに一度は俺も心があるのだと言う抵抗をしなければ、俺の精神がどうにかなってしまいそうなところまで来ている。
いつも暴力を振るわれているんだ。
殴られる者の痛みを知るべきだとも思う──
「こ、このスマホの画面を見なさいっ! そして黙りなさいっ!」
──俺の燃え滾る気持ちは彩音が見せて来たスマホ画面によって見事に霧散した。
「な、なんで………」
お前がこの催眠術アプリを持っているんだ。
俺の疑問は急激に乾いた喉により言葉として出ず、口を鯉みたいに開閉する事しか出来なかった。
「お、おおー……まさか本当に催眠術にかかるなんて」
そんな俺の、声を出したくても出せないという不自然な動きを彩音は、俺が催眠術にかかっていると勘違いして興奮している様である。
しかし既にこの時に、この催眠術アプリについて全てを洗いざらい説明して謝罪しなければ取り返しのつかない事が起きる可能性がある事を経験している俺は『違うっ!そうじゃないっ!』と叫ぼうとするものの極度の恐怖と緊張から未だに声を出す事が出来ない。
そして声を出す事が出来ないという事に俺は軽くパニック状態になり、更に恐怖と緊張が倍増し、そして新たに焦りという感情が加わるという悪循環にハマってしまう。
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