第11話パブロフの犬
一難去ってまた一難とはこの事か。
一体全体俺が何をしたというのか。
この目の前に腕を組み仁王立ちをしながら顔を真っ赤にして俺を睨みつけて来る幼馴染、天上彩音はいつもそうだ。
苗字の天上にかけて天上天下唯我独尊的な行動をしなければならないとでも思っているのだろうか?
ふざけるな! と言いたい。
いつも理由なく理不尽に殴られ、玩具やお菓子等を問答無用で奪われる俺の気持ちを少しでも良いから考えた事があるのか。
きっと無いのであろう。
だからこそ高校生になった今でもその悪癖が治っていないのだろう。
そしてなぜか彩音は、特に俺が一口口を付けた飲食物を好んでぶん取る傾向が極めて高い。
もしこれが、常識を弁えている人ならば、もしかすれば俺との間接キスをしたいのかな? と思わなくも無いのだが、このゴリラ相手に人間様の色恋の複雑な恋心など持ち合わせている筈が無く、野性的な本能から下の者に毒見をさせているだけなのであろう。
そして何よりも腹立たしいのは、勝手に俺の家(厳密には両親の家なのだが)へと我が物顔で侵入している事である。
まるで何も言わずに許可も取らず入るのが当たり前であるかの如く。
百歩譲って俺の両親から、俺のことの世話をお願いされ合鍵を渡されたとしても親しき中にも礼儀ありという言葉があるように何をしても良いという事にはならない。
そして何よりも腹立たしいのが、そんな傍若無人に好き勝手されても尚恐怖から怒る事が出来ない俺自身である。
悔しいやら情けないやら、俺の男として、人としての自尊心は傷だらけである。
結果、今では美人を見るだけで委縮してしまう程天上彩音がトラウマになってしまった。
「ねぇ、いつまでそこに突っ立ってるの? 早く上がって来なさいよ」
「お、おう」
そんな事を思っていると彩音はドスの利いた声で家に上がれと言って来る。
お前がいるから上がれないんだよ、という言葉は飲み込んで、俺は靴を脱ぎ、恐怖から震える手でなんとか靴を片付け我が家へと上がる。
「……何してるの?」
「い、いや、何も」
「そ。でも気持ち悪いからやめた方が良いよ」
「お、おう」
そして家を上がり彩音からの一撃に耐える為身体を強張らせると、彩音から気持ち悪いと言われてしまう。
誰のせいだと言ってやりたい。
好きでやってるんじゃない。
これだとパブロフの犬そのものではないか。
そんな自分が情けなくてズキズキと胸が痛む。
「それはそうと話があるからリビングのソファーに座ってちょうだい」
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