第10話鬼が居た
しかし、恐怖心が麻痺して行くと同時にアラーム音は大きくなる一方で本能が『謝るなら今だ。 この機を逃せば次は無い』と焦らしてくる。
おかしな話である。
今この瞬間天国の様な体験を思いっきり堪能した後、家でアプリのサービスを終わらせれば良いだけではないか。
何故わざわざ自分から死に行く様な事をしなければならないのか、我ながら危機察知能力もまだまだと言わざるを得ない。
そして氷室麗華が潤んだ瞳で俺を見上げて来る。
視線は自然と上目遣いとなり、普段クールな彼女とのギャップでどうにかなってしまいそう───
「好き。 好き好き大好き。 愛してる。 ずっと言いたかった……」
──になっていたのだが氷室麗華の言葉によって一気にテンションは氷点下へ、そして俺の本能でもある危機察知能力が警告し続けている理由がようやっと理解できた。
聞いたからには後戻りできない。
即ち、この瞬間バラして謝罪するという事が出来なくなったという事と同時に墓場まで持って行かなければならない秘密が出来た瞬間でもあった。
とりあえず当初の予定通りこの催眠術アプリのサービスを終了させるのは決定事項、重要度Aクラスのミッションはこの瞬間よりSSSランクのミッションへと跳ね上がる。
そんな事を考えていると視聴覚室に催眠術アプリの機能にある、催眠術が解ける十秒前の『ぴぴぴぴぴ』というアラーム音が鳴り響くではないか。
助かった。
やっと解放される。
「もうっ、もう少しイチャイチャしたかったのだけれども、仕方ないですね」
「ん~~っ…………あれ? 俺は何で座っているんだっけーー? 記憶にないやーー。それで氷室さん、話って何?」
「ああ、その事ならばもう大丈夫。全て終わって解決したみたいだから帰っていいわよ」
「ふーん、そっか。 それじゃ、俺は帰るわーー。 また明日な」
「ええ、また明日」
そして俺は伸びをしながら俳優もビックリするほどの完璧な演技で催眠術にかかったふりをするのであった。
「しかし、このアプリは良心的ですね。 画面をスクリーンショットしたものを見せても催眠術を掛けられるなんて。 最初は詐欺アプリだと思っていたけど一歩踏み出す勇気を出す切っ掛けになればと思いインストールしてみたら、とんだ棚から牡丹餅だったみたいね。 これ程の強力な催眠術アプリだと直ぐにサービス終了しそうだから今の内に片っ端からスクリーンショットで保存しまくって課金用の追加コンテンツを全て取らないとだわ…………」
◆
猛ダッシュで家に帰ると、扉を開けた瞬間顔を真っ赤にした鬼が居た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます