第13話強いて言うならば砂の味

「じゃぁそこのソファーに座って大人しく座ってて」


 そして天上彩音はそういうと台所の方へ鼻歌を奏でながらご機嫌で向かうと、俺の好きなハンバーグに白ご飯、お味噌汁等をお盆に載せて俺の前、テーブルの上へと配膳して行くでは無いか。


 因みにハンバーグ、そしてハンバーグに備え付けられている人参、お味噌汁の具材の人参と大根がハート形をしていた。


 俺もバカではない。


 これら具材が何故ハート形をしているかを瞬時に理解した。


 数時間前の俺であればあり得ないと一蹴していた事だろう。


 しかしその判断が放課後の悲劇を生んだのである。


 同じ轍を踏む訳にはいかない。


「な、なあ。 あや──」

「ほんと、このアプリ様々ね。 普段なら恥ずかしい事も催眠術にかけた状態ならば私がケイちゃんの事を好きだって気持ちを伝える事無くこんな夢だったラブラブな状況を体験できるんだもん。 大金叩いた甲斐があったというものよ。 ここ最近顔を合わせれば思わず照れ隠しで手が出ちゃってたけど、でもケイちゃんが私の気持ちを理解すらしていないのが悪いのよ。 そしてこれからはこのアプリのお陰でそんな事に悩むことなく私の妄想を現実にする事ができるだもん。 もうこれから毎日が楽しみで仕方ないわねっ!!」


──くっ、遅かったっ!! 間に合わなかったっ!!


 彩音の想いを聞いてしまったからにはもうこのアプリを、俺が遊び半分で作ったなんの信憑性も無い玩具のようなアプリである事を言う事ができなくなってしまった。


 言えば間違いなく殺される。


 彩音は、今現在口ではしおらしくゴリラのくせに乙女心全開で発情しており、見る人が見れば恋に恋する美少女と勘違いするだろうし、おっとりとしたその大人しそうな外見からまさかそんな暴力的な行動を取るとは思えないだろう。


 しかしながら、このアプリの真実を知ったら間違いなく俺は殺される。


 彩音はそういう女だ。


 その事を俺は骨の髄、そして魂にまで刻み込まれているのだ。


「はい、ダーリン。 あーん」


 そんな絶望の淵に立たされた俺の気持ちなどどうでも良いとばかりに彩音が見た事も無いデレッデレな表情でハンバーグを食べさせようとお箸を使い俺の口へと持って来る。


「あ、あーん」

「お、美味しい? 今日は腕によりをかけてつくったんだぁー」


 何だこの気色悪い猫なで声は。


 そもそもこの極度な緊張感の中食べ物の味など分かる筈が無い。


「強いて言うならば砂の味」

「あ? 聞き間違いかしら?」

「強いて言うならば至極の味。 嗜好の一品。 すごく美味しいよ、彩音」

「なぁーんだ、私の聞き間違いだったか。 でもそれもそうよね。 隠し味にケンちゃんへの愛をこれでもかと入れて作ったんだもの。 美味しくない訳が無いじゃないっ!!」


 あ、あぶねーっ!! 思考が思わず口からこぼれ出てしまったっ!!

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