第6話誰がどう見ても大丈夫ではない

 これは、どう考えても罠なのではないのか?


 そう思うし、俺の本能がけたたましく脳内にアラームを鳴り響かせている。


 しかし、ここで逃げれば俺に待っているのは間違いなく死であろう事も痛い程理解している。


 瀕死になるか、屍となるか、どちらを選べと言われたら選択肢は一つである。


 俺もまだ死にたくはない。


「どうしたのですか?誰かに見られる前に早く入ってちょうだい」

「お、おう……」


 俺はあの時彩音ではなく氷室麗華を選んだ時点で、彼女の罠に絡み取られていた事に今更ながら気付く。


 しかしながら誰がこんなところに人生の分岐点があると分かるのか。


 分かる訳がない。


 今まで接点がなく、単なるいちクラスメイトという間柄でしかなかった氷室麗華がこの俺を罠に嵌めようなどと、誰が想像できようか。


 これだから人生はクソゲーなのだ。


 人生というゲームを作った販売会社へと即クレームを入れたい程である。


 そんな事を思いながら俺は恐る恐る体育倉庫へと入った瞬間、ものすごいスピードで体育倉庫扉が閉まり、鍵が閉まる音が聞こえて来る。


 びっくりして後ろを振り返ると氷室麗華がまるで罠にかかった獲物を見る獣の様な表情をしながら後ろ手で扉を閉めている姿が見えた。


「…………っ!?」


 その瞬間俺は悲鳴を上げそうになったのを必死に堪える事が出来た自分を褒めてやりたい。


 おしっこは、少し漏れたかもしれないのだが許容範囲内である(俺基準)。


体育倉庫の中は薄暗く、ほんの少しのかび臭さと空気中を舞う埃臭さが俺の鼻孔をくすぐる。


 そして氷室麗華は薄暗い体育倉庫へ明かりをともすべく入り口横にあるスイッチを押し蛍光灯を付けると、にじりにじりと俺の方へと寄って来るではないか。


 その様は草食動物へ食いつこうとする寸前の肉食獣そのものであった。


「えっと、い、一旦落ち着こう。氷室さん」

「私はいつだって落ち着いています。 大丈夫、少しだけあなたで試したい事があるだけですので。 しかしその試したい事は皆の前でするにはあまりにも恥ずかしい事である為このような場所へ騙す様に連れて来た事に関しては謝罪します」


 そう言っていつも通りの氷室麗華の口調で話すのだが、彼女の眼が血走っており、息遣いが時間が経つにつれ荒くなってきているその姿合は誰がどう見ても大丈夫ではないと俺は思うのだけれども、ここでその事を突っ込んで藪から蛇が出て来ても困る為指摘したい衝動をグッと堪える。


「あ、う、うん。 俺もまさかこんなところに連れてこられてビックリしたよ」

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