第7話警察に突き出すに違いない

「では、世間話をする為にわざわざこんな遠い体育倉庫まで来たわけではないので本題に入りましょうか」

「お、おう」


 氷室麗華はそう言うと、ほんの少しだけ頬を朱色に染めながら学校指定のカバンからスマートフォンを取り出して起動する。


 まさかあの氷室麗華がスマートフォンを持っていた事にもビックリしたのだが、さらに学校で起動して操作しているのもビックリである。


 そもそも氷室麗華とは中学時代から同じ学校に通っていたのだがスマートフォンどころかガラケーですら持っている所を見た事が無く、連絡事項等は決まって家電であった。


「さ、流石の私だってスマートフォンくらい持っています。 それとも、私にはスマートフォンは似合わないとでも言うのかしら?」

「いえ、滅相もございません。大変似合っております」


 はっきり言って似合ってないどころか違和感がありすぎるとは流石の俺も言えず、咄嗟に嘘でその場を過すのだが、なぜか氷室麗華は嬉しそうに、そしてぎこちない動きでスマートフォンを操作し始める。


 まさか、俺に『似合ってる』と言われたから嬉しそうにしているのか? と一瞬だけ思うもそんな訳ある訳無い、自意識過剰にも程があると一蹴する。


 何だかんだ言っても氷室麗華も華の女子高生なのだ。


 そのぎこちない手の動きからスマートフォンを手にしたばかりである事が窺える為、きっとスマートフォンを初めて手にして操作できるのが嬉しいのだろう。


 その気持ちは良くわかる。


 俺だって初めてパソコンを買って貰った日はタイピングするだけで自然とにやけてしまっていたしな。


 そんな事を思いながら氷室麗華の、スマートフォンの操作が終わるのを待っていると、戸惑いながらもなんとか操作が全て終わったようである。


「では、高城君」

「は、はいっ」

「こ、このスマートフォンの画面を見て頂戴」


 そして氷室麗華は顔を真っ赤にしながら手に持ったスマートフォンの画面を『バッ』と俺の顔の前に持ってきて見るように指示をしてくる。


「は、はいっ…………………………………………………………………え?」


 脳が目の前に見えている光景を理解するのに数秒間かかった。


 何故ならば、氷室麗華の持つスマートフォンの画面に映し出されているのは俺の作った催眠術アプリの起動画面。


 それも相手を催眠状態にさせる画面であったからである。


 という事は氷室麗華はどこから見ても詐欺でしかない、胡散臭さを濃縮して煮詰めたこのアプリを一万円で購入したという何よりもの証拠でもある。


 そのアプリの製作者でもある俺からすれば某印籠や某桜吹雪よりも恐ろしい。


 背中から嫌な汗が止まらない。


 そして俺は納得する。


 氷室麗華はきっとこのアプリを証拠に警察に突き出すに違いない、と。

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