第5話そして歩く事十五分
そして俺は普段通り授業をこなしていくのだが、何だか今日は氷室麗華からやけに視線を感じる気がする。
自意識過剰であると思いたいのだが、目線が合うだけでも既に十回は超えているので、俺と氷室麗華との目線が合う毎に俺の精神がゴリゴリと削られていく。
どうせ見つめられるのならばクラス委員長の高木さんに見つめられたい。
あのおっとりした感じや眼鏡をかけて物静かな雰囲気など、その全てにおいて俺のオアシスなのだ。
決して顔だけで異性を選んではいけないという事を彩音により骨の髄まで叩き込まれている俺からすれば氷室麗華は地雷であると断言できる。
というかどっから見ても地雷でしかない。
俺はまだ特殊な性癖の扉、所謂マゾヒズム、一文字で表すならばMという扉をまだ開いていなければ開く予定もない俺からすれば見つめられても嬉しくないどころか彩音によって植え付けられた恐怖によって俺の精神はマイナスに到達しそうな勢いである。
むしろ最早美人という人種が俺のトラウマになりつつある程だ。
「ねぇ、今すこし時間いいかしら?」
そして俺はそんな地獄の様な一日を終え、いざ帰ろうとしたその時、今から人一人切り殺しに行くかのような表情をした氷室麗華に声をかけられる。
俺が一体全体何をしたというのか。
確かに昨日高木さんで妄想したのだが、やましい事と言えばそれだけであるし、それだって健康な男子高校生にとっては当たり前の事であろう。
何も責められるような事はしていないと断言できる。
断言できるのだがここで断る勇気があるかはまた別問題である。
俺もまだ死にたくはない。
口答えをして殺されるくらいならば素直に従うのが処世術であると俺は彩音から教わった。
教わらずに生きたかったという俺のささやかな願いは一旦置いておいて、某スナイパーのような表情をしている氷室麗華から声をかけられて断る事ができる人はこの学園だけ見てもきっと一人もいやしない。
そう、だからここで媚び諂ったとして、俺がヘタレであるという事は無いのだ。
その事だけは頭において欲しい。
「ど、どうした?」
「ちょっと付いて来てほしいのだけれども」
「あ、ああ。 分かった」
「あ、ちょっと健介っ!?」
「ごめん彩音。 今日は先に帰ってくれ」
そして俺を引き留めようとする彩音に軽く謝り、先に変えるように告げると氷室麗華の後を追う。
「あの、一体どこまで行くんですか?」
「私と高城は同級生。 敬語じゃなくてため口で話してちょうだい」
「あ、はい。すみません」
あの、俺の問いに答えてないのですけれども。
という俺の思いは強引に飲み込む。
そして歩く事十五分。
俺は今、学園のグラウンド端にある体育倉庫入り口の前へとやって来るのだが、本能が入るなと告げており、足がすくんでなかなか前へと進まない俺の横を、氷室麗華はためらう事も無く体育倉庫へと入って行くと、俺へ目線で「何をしている? 早く入れ」と告げて来る。
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