第4話氷室麗華
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朝食を食べ終え、歯磨きなどの身支度を済ませた後、俺は彩音と一緒に徒歩十五分程度の道のりを自歩いて行く。
しかし何故こいつはいつも俺と一緒に登校するのかと思うのだが、こいつの本性が筋肉ゴリラであると分かっていない哀れな男性たちからの嫉妬の視線はそれはそれで心地良かったりもする。
そして俺は彩音と他愛も無い話をしつつ何とか殴られる事も無く無事に学校へ着き下駄箱へ。
時計を確認すると予鈴の金が鳴るまで十分もあるので一度売店へ寄りリンゴジュースとラスクを購入してから教室へと向かおうとしたその時、俺の目の前に絶世の美女が立ちふさがった。
「奇遇ですね。 私も今日はリンゴジュースとラスクを買う予定です」
「は、はぁ」
「案外気が合うかもしれないですね」
「そ、そうですか」
「そうです。では」
「あ、はい」
その絶世の美女は輝く銀髪を靡かせながら売店へと向かっていく。
そして俺は角を曲がり奴の姿が見えなくなったところで緊張の糸が切れたのか一気に脱力してしまう。
「ちょ、ちょっと。 大丈夫なの?」
「めっちゃ緊張した。 殺されるかと思った」
そんな俺を心配したのか珍しく彩音が心配そうに声をかけてくれるのだが、ここで騙されてはいけない。
感謝の言葉でも言おうものならば『貸し一』という恐ろしいポイントが加算されてしまうからである。
その為俺はその事には一切触れずに答える。
そもそも、なぜここまで緊張したかというと、先ほど俺に話しかけて来た女性は、この学園二年の氷室麗華である。
因みにクラスは同じ。
この氷室麗華であるのだがその圧倒的な美貌とクールな行動や言動から氷の女王などと裏で呼ばれておりファンクラブまである人気っぷりである。
普段は無口で基本的には誰とも話さず、必要な時にだけ口を開く為、彼女の声を聞けたその日一日は幸せになる等とも言われている程である。
更に、当然の事ながら人気があるという事はそれだけ告白されるという事でもあるのだが、その返答が常に氷点下。
告白してきた男性(たまに同性)達相手にいかに自分と釣り合わないかを滾々と説明して行くその様はまさに氷の女王。
人の心があるのかすら疑うレベルである。
しかし、そんな氷室麗華だからこそ特殊な性癖の方達からは絶大な人気を誇っていたりする。
そんな彼女がこの俺に話かけて来るだけではなく、その内容は売店で何を買ったかという心底どうでもいい事ではないか。
最早この理解できない難解な現象に俺の脳は考える事を辞めた。
そしてそんな俺に「本当に大丈夫?」「あれなら保健室に付き合おうか?」「つ、付き合おうって、口にすると変に意識しちゃうわね」「あれだったら最悪一緒に帰って看病してあげるわよ」などと隣で煩いメスゴリラが居るのだが、そんな見え透いた罠にかかる俺ではないので軽く無視して教室へと向かう。
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