第3話デンジャラスな日常
そして俺は着替えを済ませ食卓へ向かうと、脳筋ゴリラが調理したとは思えない朝食が既に並んでいた。
初めてこの光景を目撃した時は変な薬を飲んだのではないかと心配になったのだが、その後天上彩音本人へと聞いてみたのだがコンマ数秒で右のストレートが飛んで来たので本人が作ったのであろう。
俺がアプリ制作が得意な様に人間得意な物の一つや二つくらい持っていても何ら不思議ではないと、あの時の俺は鼻にティッシュを詰め込みながら思ったものである。
「頂きます」
「はいどうぞ」
朝食の献立は白ご飯に焼き鮭、みそ汁に漬物に玉子焼きと至ってシンプルなのだが、シンプル故に味の誤魔化しが効かず、調理した本人の実力がそのまま反映されるといっても過言ではない。
「どう? 美味しい?」
そして彩音はとても幸せそうな表情でそんな事を聞いてくる。
はっきり言おう。
その笑顔はとてつもなく可愛い。
そもそも彩音は俺が通う学園でもファンクラブができる程の人気であり、容姿だけ見ればそこら辺のアイドルなんかよりよっぽど可愛い。
髪は艶のある黒髪を腰まで伸ばしており、お洒落な髪型と言うよりかはセットしやすさから選んだかのようなストレート垂れ流しの髪型であるにも関わららず、いやだからこそそのシンプルな髪型故に可愛さが際立っているのである。
立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花という言葉がまさに似あう為、大和撫子であると、彩音を見た誰もが思い至るであろう。
そう、黙っていれば。
故に皆あの笑顔に騙されるのである。
しかし俺は決して騙されない。
今俺に向けている幸せそうな笑顔の裏は筋肉ゴリラが息をひそめて隠れている事を誰よりも知っている、文字通り身体で教えられている。
身体の至る所にある傷がその証拠である。
その為ここで回答を間違えようものならば俺の顔面がどうなるか分かったものではない。
「お、美味しいよ……」
嘘は言っていない。
きっと美味しいのであろう。
現に笑顔を向けられるまでの一口は美味しかったと思う。
しかしながら今現在、緊張とプレッシャーから味覚はなくなり、先ほど食べたはずの焼き鮭の味も忘れてしまっていた。
「ほんとっ!? 良かったっ!! じゃぁ私も食べよっと」
そして心底ほっとしたような表情でそんな事を言った後、彩音は先ほど以上に笑顔をほころばせながら朝食を取り始めるではないか。
その笑顔に危うく惚れそうだったのだが、俺は結婚するならばクラスの委員長である高木さんのようなおっとりした人畜無害、小動物のような可愛らしいリスののような癒し系の女の子とプラトニックな愛を経て結婚をして平和な家庭を作りたいのだ。
決してゴリラでも無ければ常に妻の顔色を窺わなければならないデンジャラスな日常ではない。
と、彩音が世話をしに来てくれ始めてからより一層そう強く思い始めるのであった。
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