第2話天上彩音
春の温かな日差しを浴びながらけたたましく鳴り響く目覚まし時計を渾身のチョップで黙らして二度寝を決め込む。
目覚まし時計が鳴る時間から十分後にはスマホのアラームが鳴るように設定してあるから大丈夫であろう。
そして幸せを噛みしめるかの如く二度寝をするべくもぞもぞと布団の中で心地よい体勢を探りながらまどろみの中へと思考が沈んでいく。
「二度寝をしようとするんじゃないわよっ!! 起きろこのボケナスっ!!」
「ぐへあっ!?」
しかしながら現実はそう甘い筈も無く、現実という名のクソゲーを、そのクソゲーたる最たる原因、根本、この俺の天敵である幼馴染、天上彩音が俺の上にかかっている布団を強引に引き剥がすと、誹謗とも取れる言葉と共に容赦なくビンタしてくる。
「何すんだよっ!? まだ時間には余裕があるんだから寝かせてくれても良いだろっ」
「ダメだっ!! お前はそうやっていつもいつもギリギリまで粘り、朝食を食べずに登校するじゃないのっ!!」
「朝食を食わなくても死にはしないっ」
「あのねっ! 私はあんたのご両親から海外出張中の二年間、あんたが高校を卒業するまでよろしく頼むとお願いされているんだからっ!! それなのにあんたが遅刻したり朝食食べずに成績が下がったりなんて事があったらあんたのご両親に顔を向けれないじゃないっ!!」
そう、あろうことか今年の二月に急遽父が海外へ二年間の転勤が決まって夫婦で日本を旅立ってしまったのだ。
そして俺は英語も分らないし友達と離れたくない為日本に残る事にした。
ここまでは良い。
海外にも支部を持つ会社で働く家庭では良くある話だ。
しかし、俺が一人で日本に残るのが心配だった両親はあろうことか隣に住むメスゴリラもとい天上彩音へ俺の事をよろしく頼むという何の罰ゲームだと問い詰めたくなるような余計すぎるおせっかいもとい置き土産を残して海外へと行きやがったのである。
その結果がこれだ。
両親が海外へ行ってからというもの、俺の安寧な一日など無いに等しい。
俺ができる事と言えば日々両親を恨む事くらいである。
「ほらさっさと着替えて歯を磨いてきなさいよ。朝食できてるから」
「へいへい……」
そして断るとどのような未来が待っているのか思い知らされているので口答えはせず眠気眼を擦りながらもぞもぞとベッドから這い出て着替えようとしたところで俺は動く事を止める。
「どうしたのよ? 私を見つめて。 まさか、ようやっと私の可愛さに気付けたのかしら?」
「なにばかな事言ってんだお前。 鏡でも持ってきてやろうか?そうじゃなくて着替えるから出てけよ。 まさか俺の生着替えを見たいとかじゃないだろうな?」
「あ、な、あ、へ、へへへ、変態っ!! 痴漢っ!! 最っっ低!!」
「ぶへあっ!?」
そして彩音は怒りからか顔を真っ赤にして、紳士たる俺に向かってあらぬ言葉を叫んだあと、先ほどビンタされた反対側の頬へと思いっきりビンタ一発喰らわして勢い良く部屋から出て行きドタドタという足音と共に一階へと降りていく。
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