第2話 アルン、王都へ行く
「アルン様~~~~っ! お帰りなさいませ~~~っ!」
バーンと部屋の扉を開けて入って来たのは、銀髪をオールバックに纏めたナイスミドルの執事であった。
「げげっ! トーマスかっ!」
アルンはこれまた二年ぶりに会う執事に驚いた。
「はい、トーマスでございます! ご立派になられて(泣)」
トーマスはハンカチで涙を拭きながら再会を喜ぶ。
「いや、俺は帰らないって言っただろ!」
アルンがツッコむ。
「私も、アルン様の人生修行だと申し上げたのですが旦那様が国王陛下との
賭けに大敗を喫せられまして」
「え、父上馬鹿なの? 何、王様と掛けなんかしてんの馬鹿貴族なの!」
親の賭けのせいで、自分は実家に連れ戻されたのかとアルンは呆れ果てた。
「息子を宮廷勤めに出させるけれど、魔法学園は卒業させないと碌な働きはできないから勉強させてくれと教育期間と言う猶予は勝ち取られました」
トーマスがサムズアップをする。
「いや、その悪運がなんで賭けの時に出なかったの父上! それで父上は?」
自分の人生を狂わせた父親をアルンは殴りたくなった。
「旦那様は、アルン様が学園で学ばれている間に冒険者として逆転する為の資金を一山当てに行くと」
トーマスも呆れながら語り出す。
「いや、父上は一体何を考えてるのさ!」
「旦那様もかつては独立心旺盛で冒険者をなされていたそうで、その辺りはアルン様も受け継がれておられるかと思います」
「……うん、その話を聞くと何か納得できる自分が嫌になったよ」
アルンは、ため息をつく。
「おや、アルン様? それはもしや失われた我が家の家宝、勇者の籠手ではありませんか!」
トーマスが、アルンの左手に装備されている銀の籠手を見て驚いた。
「へ? この籠手って、そんな大事な物なの? 何か、念じたら消えたり装備出来たりするんだけど?」
アルンが籠手を見て、感心した。
「アルン様のひいお爺様が、出征で戦死された際に失われた神器でございます!」
トーマスが興奮して叫ぶ。
「だから、モンスターの胃の中でも平気だったんだこれ」
アルンが手の甲に太陽を表す紋章が刻まれた銀の籠手を見る。
「まさか、再び勇者の籠手をこの目で拝めるとは! アルン様、貴方はソルハート家の英雄でございます!」
トーマスが涙を流しながら喜ぶ。
「いや、偶然手に入れたんだよなこれ?」
まさか、ドロップ品が家宝とは思いもしなかったアルン。
「おそらくは、籠手に宿られた英霊がアルン様を求めたのやもしれませぬ」
「そう言う物か? まあ、何か装備したら外れなくなったしそうなのかもな」
籠手を出しては戻しを繰り返すアルン。
「その籠手を身に付けられたと言う事は、アルン様は拳の勇者の称号も使命も継承されたと言う事でございます♪」
トーマスが真面目な顔で語り出す。
「拳の勇者の使命?」
アルンはトーマスの言う意味がわからず聞き返した。
「はい、拳の勇者の使命は小さな悪から世界の脅威レベルの邪悪な存在までその拳で打ち砕くという初代の誓願から生まれた使命でございます」
トーマスが質問に答える。
「どんだけ悪党を殴りたかったんだよ、家のご先祖様は?」
アルンは先祖の使命感に狂気を感じた。
「まあ、覚えておくよそれより魔法学園に行く支度を頼む」
自分がそんな使命を果たす日は、多分来ないだろうと楽観視するアルン。
「おお、左様でございますかそれではまずは制服の採寸からでございます♪」
トーマスが指を鳴らすと、魔法学園の制服であろう赤色のブレザーや灰色のスラックスを持ったメイド達が部屋の中に入って来た。
「マジかよ、ちょっとメイドさん達の目が光ってるよ!」
制服を持ったメイド達に恐怖を感じたアルン。
「ご心配なく、当家のメイド達は皆立派なニンジャでございますゆえ♪」
「そんな事初めて知ったよ~~~っ!」
疾風の如く動き回るメイド達により、アルンは瞬時に制服姿に着替えさせられた。
「早い! 流石、ニンジャ!」
アルンはメイド達の仕事の速さに感心した。
「お似合いでございますよアルン様♪」
トーマスとメイド達が拍手をする。
「で、後は勉強道具とかいるんだろ?」
アルンが学校と聞いてペンやノートなどの勉強道具などを思い出す。
「それらの道具類のご用意もお任せ下さい、そしてアルン様はまず一週間かけて市民生活の感覚を取り戻していただきます」
トーマスが宣告する。
「俺、普通に市民生活してたよ冒険者として」
「冒険者の生活と学生生活は違いますので、お勉強をするという事から思い出していただかないとなりません」
「わかったよ、リハビリだと思ってがんばるよ」
アルンは忘れていた貴族のマナーなどを思い出す訓練を行なってから、王都へと旅立つ事となった。
「ここが王都か、そしてあの通りの先にあるのが魔法学園か」
賑やかな王都の中央通り、その先にある王城ではなく北西地区にある丘の上の建物を見てアルンは呟いた。
「ここで馬車代をケチって降りずに、あそこまで乗って行けばよかったかな?」
アルンは自分で歩きながら街並みを覚えた方が良いと考えて、学園へと向かい歩き出した。
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