第十二話 一触即発

 少女たちはてしまったと思った。

 目の前に居る道化の男が、『神の鉾』の“ギルド長”なんてことは夢にも思わず昨晩、言いたい放題、身分不相応な発言をしてしまったことを。


 見る見るうちに肩を縮めを言外に表現する。

 その姿を見ていた、筋骨隆々でスキンヘッドの男が横柄な態度で少女たちを睥睨へいげいしながら口を開く。


 「ガキ共! 昨夜につづきまた内の“ギルド長”を馬鹿にしてくれたなぁ! オレはこう見えて、と言うか『神の鉾』の“副ギルド長”! “ガンテル”ってもんだ。さすがに二度目は殺す!」


 でいうのなら、ただのチンピラにしか見えないが、本人の認識では違うらしい。


 ガンテルは、礼儀もわきまえない少女たちを、切り伏せようと帯刀していた大剣の柄に手を伸ばした瞬間、

「オイ! オマエ死にたいゴス!?」


 と言いながらガンテルの、大剣に伸ばす手をつかみ呟くウノカ。


 ウノカはたまたま、本当にたまたまギルド会館に来ていた。ハマトラたちが店を出た後、チラシを片手にギルド会館に向かっていた。

 新商品のチラシと期間限定セールのチラシを、お知らせ掲示板に掲載させてもらうためだ。もちろんハマトラたちがここに来ることは知らない。


 ガンテルは必死にウノカの手を振り払おうとするが願いは叶わない。

 自由な方の左腕を振りかぶりウノカの顔面に拳を叩きこむ。

 右頬を殴られたウノカは首だけが少し動く。

 刹那、恐ろしいまでに口角を上げ、「お前――死んだジャッ!」と言うと、背負っていた二メートル以上ある“巨大メイス”に手を伸ばす。


 そのメイスは先端が球体でありながら時計でいうところの、三時、六時、九時、十二時の位置に少し出っ張った“野蛮な刃物”が取り付けられている。

 切るもよし、潰すもよし! といった大変物騒な代物だ。

 でも、ウノカには超絶に馴染むであった。


 まさかギルド会館で!? 今まさに死闘が行われようとする瞬間。


 二人の横に立ちはだかり、レアスキル“重力操作グラビティー・マスター”を発動するハマトラ。

 すると二人は片膝をつき苦悶の表情を浮かべる。

 ハマトラは“重力操作グラビティー・マスター”の一つ“重力増加グラビティー・アップ”を発動した。


 するとウノカとガンテルは鉛が覆いかぶさるような重圧に見舞われる。

 ウノカはハマトラのスキルだということを瞬時に理解したが、ガンテルは分からない。なぜならばハマトラがこういったスキルを駆使して『神の鉾』の新人冒険者をサポートしているとは知らないからだ。

 ザーフとガンテルからすれば、ハマトラは後方から大声で叫び指示しているだけの無能古株冒険者、と言う位置づけなのである。


 ガンテルは「ぐぬぬ」と、顔をゆがめながらなんとか耐えている。

 一方のウノカは重力に身を任せ、全身をゆだねるように地面と接吻していた。

 これは幾度となくハマトラに戦闘を挑んだ末に、ウノカが編み出した“逆らえないならせめて体力の温存”である。


「お止めなさい!!」


 ガンテルの苦悶な表情を確認するや否や、ザーフがギルド会館内に響き渡る声で叫んだ。

 ハマトラは“重力増加グラビティー・アップ”を解除した。


「ハマトラさん……勘違いしないでください。ワタシは別に貴方たちのことを憎んではいません。ただ眼前に飛ぶハエのような感覚……即ち、鬱陶しいのですよ! そもそもそんなお嬢さんたちと、新規ギルドまで立ち上げて目指すモノなのですかね? 最強というモノは! もう冒険者を引退されてはどうですか? と思っています」


 ハマトラは「ハッ!? コイツ何を言ってるの?」と思いながら頭をかき、

「お前に何を言われたところで変らねえよ。引退もしないし最強を目指す! 日に日に『神の鉾』に近づきそして越えてみせる! お前はそれが怖いんだろ?」


 ハマトラは余裕綽々で言うと、

「アナタ! 失礼ですよ! 『神の鉾』の長で在る私に! そこまで言うのなら“新ダンジョン”が現れた時に勝負するのはどうでしょう? 勝敗は単純です。早く攻略した者が勝者です」言い終わるとザーフは悪魔のような微笑みをうかべた。


「望むところだ!」と、ハマトラは右手親指を立て答えた。


 ☆☆☆☆☆


 次回

 旅立ち



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