第三話 「最強を目指す!」

 ハマトラの言葉を聞いた少女たちは、叫んだあと、コイのように口を“ぱくぱく”と上下に開閉している。


 そんな状況の中、ハマトラが少女たちの素性を求めた。

 聞かれた少女たちは、順々に応える。


 始めに口を開いたのは、回復魔法使いの大柄な少女。


 身の丈は一八〇センチほどで、胸がメロンと同等の大きさの持ち主。

 これぞ“爆乳”という代物だ。

 髪色は、熟れたトマトを連想させるような深い紅色で、髪型は、両のこめかみ辺りで二つ結いにしている。いわゆる“ツインテール”だ。


 さらに付け加えるならば、男子で嫌いな人を見つけるのは至難の業で、軸は変えず首を左右に振り、しなった髪でしばかれるのが好きな人も少なからずいる、そんな髪型の持ち主。


「先程は助けて頂き、有難う御座いますです! 私の名前は“ドレッ”と言いますです。担当は回復職で、歳は十五ですです。あとしいて言えば、趣味はバードウォッチング、かなーです」


 ハマトラは聞き終わると手だけで座るように合図する。

 するとドレッはゆっくり地面にお尻をつけた。


 続いては、モンクの細身な猫人少女。


 身の丈は一六〇センチほどで、胸はまな板のごとくまっすぐ。

 いわゆる“つるぺた”だ。

 髪色は、柑橘系を彷彿とさせる甘酸っぱそうな橙色に、ところどころ黒い筋がある。


 髪型は、腰までだらりと伸びていて、いわゆる“ロン毛メッシュ”と言うやつだ。

 ツインテールには完敗するが、中年男性で若いころブイブイいわせていた人にはある程度の需要が見込める。そういった髪型である。


「てかせんは、マジ感謝ぴよ! 超ヤバくてマジ汗! 戦闘激ムズ! YOU神だし! えっと、名前はローエイ。一応これでも、モンク! よろぴよわら! 今年は一五でやらせて貰ってるぴよん! 趣味はわかんないって感じぴよよん!」


 ローエイは言い終わるとおどけながら座った。


 最後の自己紹介者は、その身なりでタンクなの!? と見紛うほどの小柄な少女。


 身の丈は一五〇センチほどにも拘らず、自らの体重よりも重いであろう装備をまとっている。

 鎧から、はみ出んばかりの胸はまさに、“巨乳”。

 そういった専門書が有るならば是非とも載せたいぐらいの代物だ。


 髪色は夏の空を思わせるような透き通った水色で、髪型は、女の子としては稀有けうな短髪。いわゆる“ベリーショート”だ。――とりわけ付け加えることのない髪形だが、あえて言うならばもう少し伸ばした方が、男子ウケすると思う。


「おう! さっきはどうも。別に助けなんか無くてもやれたケド……まあ――どうも。ブイース。ルカ・ブイース! 俺の名だ! タンクで十五。趣味は――。;。;k。だから、・。^¥。あああああああああああああああああ! 手芸だよ!」


 ルカ・ブイースは、顔を真っ赤にし言い終わると、膝を立て抱え込むようにして俯いた。自身の女らしい局面を口外したくないらしい。




 少女たちの自己紹介を聞き終わると、ハマトラはすっと立ち上がり、背筋を正し少女たちに言及する。


「申し訳ないが、お前ら、冒険者に向いてない! 今すぐ諦めて“花嫁修業”に励め! 初陣だか知らんが、それにしても戦闘がお粗末すぎる! このままつづけたら、間違いなく死ぬぞ! それが嫌ならどこかのギルドに属すか、有能な冒険者に師事するんだな! じゃっ。オレはこれで!」


 ハマトラはぞんざいに言うと、少女たちに背を向けて立ち去ろうとする。

 すると、少女たちは、こそこそと話し合い一斉に話し出す。


「「「だったら私たちの師匠に成ってくださいですぴよ!」」」

「パーティーは――ごめんだ!」


 ハマトラは少女たちの発した願いを言下に否定した。


 ◇◇◇◇◇


 少女たちと別れた後、ハマトラは馴染みの食堂兼酒場にいた。


「いらっしゃいませ! ご注文は何に致しますか?」

「えーっと。果実酒とボロボロ鳥の串焼きと日替わりの漬物をください」

「かしこまりました! あと本日のおススメ、“ハンマーヘッドピッグ”の香草炒めもよろしかったらどうですか?」

「あーじゃあそれも」

「かしこまりました! でわ少々おまちください」


 ハマトラは営業上手の若い店員に注文を告げると、今日の出来事を思い返しながら、明日からどう生きていこうかと思案していた。

 そんな折に、出会いたくない者に声を掛けられる。


「コレはコレは! 失業真っただ中のハマトラさんじゃないですか! まさかこんなところで会えるとは思っても見なかったですよ! まぁギルドの貢献度でいえばクビになっても仕方がないですけどね! だって貴方、後方から大声を上げ、新人冒険者にアドバイスをしているだけでしょ? そんな方が偉そうにギルドうんぬん言っても何の説得力もないですよ!」


 道化姿で若い長髪の男は、ハマトラを蔑むように言葉を浴びせる。

 彼は『神の鉾』の在籍者。ハマトラにとっては元ギルド仲間であったが、ハマトラのスキルを体感したことがなかった。


 ハマトラは感情を殺し「はははぁ」と乾いた声を発する。


 そんな光景を偶然にも見ていた者たちがいた。

 その者たちは、この状況に我慢ならずはらわたが煮えくり返り、怒り心頭していた。


 なぜならば今、目の前でへんちくりんな長髪の若者に馬鹿にされているのが今朝、命を助けられ、尊敬に値する人物であったからに他ならない。


「オイ! テメー! さっきから黙って話を聞いてればえらい言いようだなぁ!」

 居合わせた少女たちの中で一番小柄で、水色の頭髪の少女が声を上げた。

 

「コイツは俺らの命の恩人なんだ! 馬鹿にすんなじゃねぇ!」

「えーっと良く分からないのですが人を馬鹿にするのは良くないと思いますです!」

「てか、いい年こいて嫌みとかマジウザ勘弁乙なんですけどぴよ!」


 巨乳タンク少女が威勢よく啖呵を切ると、それに追随し爆乳回復魔法使い少女と貧乳モンク少女が意見する。


 たまたまハマトラと同じ飲食店に居合わせた新人冒険者少女たちは、自らの言いたいことを好き勝手に吐露した。


 その声を聞いて長髪の男が「ホーッホッホ!」と大声で嘲笑し、

「ギルドで使い物にならなくなるや否や、ガキ共の相手をしているのですか!? イヤぁ、御見それしましたよ! 反面教師にさせていただきます! ホーッホッホ!」と心底馬鹿にした物言いをする。


 そこまで言われてもハマトラは笑顔を崩さなかった。

 それを見た少女たちは、ハマトラを庇うように叫ぶ。


「俺達は最強の冒険者になるんだ!」

「最強はわからないですが立派な冒険者になりますです!」

「てかよく分かんないケド今よりは強くなるなんですけどぴよん!」


 巨乳タンク、爆乳回復魔法使い、貧乳モンクという順番で自らの夢を吐露した。


 少女たちの言葉を聞いていた長髪の男の横に居た、筋骨隆々でスキンヘッドの男が、音もたてず草木が芽生えるかのように、ゆっくりと立ち上がり、口を開く。


「オイ! ガキ共! 冒険者を舐めるんじゃねぇ! テメーらヒヨっこがまかり通る世界じゃねんだよ! なんなら今ここでやってもいいんだぜ!てかぬるいこといってると、テメーらぶっ殺すぞ!」


 と凄み、少女たちの眼を交互に睨みながら死神の如く低い声で言い放つ。


 言われた少女達はや、恩人を馬鹿にされているのにも関わらず自分たちのもどかしさから、溢れ出ようとする涙を、歯を食いしばり懸命に堪えることしかできなかった。


 その姿を見たハマトラは笑顔一転、修羅の形相になり、

「オイ! そこまで罵倒する必要はないだろ! 駆け出しの冒険者に、なにむきになっている。弱い者いじめはやめろ!」と声をあららげる。


 するとスキンヘッドの男が自身の頭を“ぺしぺし”とたたきながら、

「なに正義ぶってるんだよ! ギルドをクビになった奴が! まさかこんなちんちくりんな嬢ちゃんたちが冒険者として使えると本気で思ってる訳ねぇよな! こんな糞ガキ共はさっさと適当な男を見つけて嫁ぐか、娼婦にでもなった方がこいつ等の人生楽だぜ! それにお前だって人のこと心配している余裕なんてないんじゃないのか? 無能スキルで無職のオッサン! ガッハッハ!」と馬鹿にするように言う。


 スキンヘッドの男は言い終わると、右手に持っていたジョッキの酒を飲み干し、勢いよくテーブルに叩きつけると、刹那ジョッキと木製のテーブルが同時に爆ぜた。 


 基本的にハマトラという男は、言葉遣いは若干、粗暴そぼうではあるが面倒見がよくめったなことでは感情的にはならない。

 だが、ここまで言われてそのままにして置くほどお人よしな男でもない。

 有り体に言うならばたのだ。


 ハマトラは、座していた椅子からゆっくりと腰を上げ、大きく深呼吸をし両拳を力いっぱい握り叫ぶように声を発する。


「いいかよく聞け! オレは今日、否、今この瞬間からギルドを作る! とりあえずメンバーはココに居る三人の泣きじゃくっている少女たちだ! こいつらと一緒に――オレは……最強を目指す!」


 そう宣言するのであった。



 ☆☆☆☆☆


 次回

「マジかよ!?」

「凄すぎますです!」

「コレほど迄ぴよよん!」



 ※少しでも面白いと感じましたらフォローと☆☆☆をくださると嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る