第六話 適材適所

 背筋を正し「ゴホン!」と咳ばらいをし、新たな職業を、目の前に居る不安そうな少女たちにゆっくりと告げるハマトラ。


「まずは、ドレッ! 回復魔法使いから前衛タンクに変更を言い渡す。理由はそなたの体格。回復魔法使いよりも体格を生かし敵を殲滅せんめつする方が向いているからに他ならない。さらに付け加えるならば、前線で戦う者のになれる! 戦闘中に回復魔法を使える者が近くにいるというのは心底ありがたく心強い! 以上をもってそなたを使に任命する!」


「謹んでその職に就かさせて頂きますです!」


 ドレッは若干恥ずかしそうに、深々と頭を下げ了承する。


「次いで、ローエイ! モンクから攻撃魔法使いに変更を言い渡す。理由はそなたの俊敏性。敵に攻められても瞬時に距離を保つ、猫人が持つ野生のカン! に他ならない。もっと言うならば、持ち前の格闘センスで敵をけん制しながらの、近距離攻撃!   挙句の果てには遠距離で攻撃魔法を放ちつつ、スキあらば打撃を浴びせるような、今までにない攻撃魔法使い! 以上のような期待を込めて使に任命する!」


「マジぴよ!? なんかって響きが超んですけどぴよよん丸!」


 と、言いながらローエイはその場で跳ね回り、歓喜雀躍した。


「最後に、ルカ・ブイース! 前衛タンクから回復魔法使いに変更を言い渡す。理由はそなたの秘めたる魔力量。小柄な体躯でその重装備を可能にしていた膨大な保護魔力! に他ならない。その重装備を脱ぎ捨てた時、そなたは今までにない解放感を得るであろう! さらには持ち前の負けん気の強さで、回復魔法使いでありながらも前線に赴き敵に一撃をくらわせてから距離を保って回復魔法! そんな光景が目に浮かぶ! そのような理由から使に任命する!」


 ハマトラが言い終わるや否や。


「くぅぅーー! 俺の事わかってんな! おっさん! 接近戦を取り上げられなかったことに感謝するぜ!」


 ルカ・ブイースは、両膝をつき声高らかに叫びながら、右腕を天に突き上げた。



 少女たちは新たな職業を聞き終えると、「イエーィ!」と皆でハイタッチ。

 その場で抱き合いくるくると回り、喜びを表現するのであった。


 ハマトラは無粋と思いながらも少女たちに思っていたことを聞いた。


「お前らは、なぜその職業にしたのだ? もっともな理由があるならば是非とも聞いてみたい」


 はしゃいでいた少女たちは我に返り、一旦その場に腰を下ろす。


「えーっと」と、声を発しながら立ち上がるドレッ。


「べつに深い意味はないのですが、三人で冒険者になろうと決心した時に、職業どうするの!? ってなりまして……。やりたい職をすればよくないですです!? ってなり今に至りますです。深い意味はないですです」


 終始両手をさすり足腰をもじもじさせながら答える。

 その光景はいかにもですと言外に示していた。


「フゥー」と軽く息を吐き背筋を正すハマトラ。

「やはりな」と呟く。

「でもそれはだ!」

 と、相好を崩し言った。


 「まぁ。付け加えるならばしもやりたいことが天職になるとは限らない! 他人から求められることが天職なのだ! そういう意味あいなら、今回の職業変更はお前らにとって天職になるとオレは思っている!」


 少女たちは“うんうん”と頷きながらお利口さんに聞いている。

 そんな少女たちにハマトラは「えー――」と、空を仰いでから。


「今後の方針も伝えたことだし、ギルド会館に職業変更の登録をしがてら、お前らの装備を整えるため、街に行こうと思うがどうだ!?」


 その声を聞いた少女たちは待ってましたといわんばかりに立ち上がる。


「行きますですーー!」

「待ってましたぴよよん丸!」

「買い物だぜ! こんちきしょー!」


 と、感情を爆発させるのであった。




 ☆☆☆☆☆


 次回

 その女、凶暴につき



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