第五話 死刑宣告からの逆転無罪

 鬼気迫る戦闘を終えた少女たちは、改めての厳しさや過酷さ、覚悟を身に染みて理解するのであった。



 そもそも冒険者とはこの世界に蔓延はびこる魔物を討伐し、平和や資源――魔石、毛皮、骨、肉、鉱石、等――を人々に還元しようとする考えのもとになり立っている職業であり、決して生易なまやさしいものではなくむしろ。


『ハイリスク! ミドルリターン!』という位置づけの職業なのだ。


 ではなぜこの世界の者たちはこうも冒険者に憧れを抱くのか?

 それはこの世界の情報取得、手段にある。ネットはもちろんテレビやラジオも存在しない世界。あるのは三日に一度の新聞のみ。


 都市部で暮らす子供たちもそうではあるが、とくに田舎に生まれ育った子供たちにとっては、都市部の情報や、冒険者の活躍を知らせる新聞は、心のときめきを作るのには十分であった。


 そんな記事のいいところばかりを夢見て、冒険者を目指す者は数知れず……。

 その中で、冒険者として生活を維持できる者は、ほんの一握りに過ぎないのが現状である。


 数値で表すならば、七十五パーセントは挫折する世界。生き残るのは四分の一。

 ただし成功したならば金銭に困窮することはまず皆無。

 まさにでありそんな世界だ。

 厳しい世界であることは分かってはいるが、見ないようにしている者が大半であった。


 なぜならば純真無垢な子供が、プロスポーツ選手に憧れを抱くように、幼少期の夢を無下にはできないからだ。


 いろいろな事情を考慮しながらハマトラは少女たちに問う。

「お前ら本当に冒険者になりたいのか? 今ならまだ間に合う! 無理なら無理と申告しろ! 諦めることが決してあくとは思っていない!」


 ハマトラの声を、いつになく静かに聞いていた少女たちは各々に思いをぶつけてくる。


「俺たちは冒険者にもなれないのかよ! 俺は――どんな困難があろうが最強を目指したい! コレだけは死んでも変わらねぇー! そんな夢くらい持ってもいいだろ!」

 体躯は一番小柄だが、意志の強さと気持ちの大きさなら誰にも負けないであろうルカ・ブイース。小さな体を小刻みに震わしながら言った。


 次いでドレッが鷹揚な態度で、

「私は、人々に感謝される職業に就きたいですです! それは、商人とか、医療系とかではなく、違う角度で人々が安心して日常を暮らせる、世界を構築したいと思っているのですです! 私の中ではそれがと言うことなのですです!」と言う。


 言い終わると公言した態度とは裏腹に、顔のみならず全身を熟れたイチゴのように真っ赤に染めて腰を下ろす。


 ドレッが言い終わるや否や、音も無く“すくっ”と立ち上がりローエイはぞんざいに右手で髪を掻き毟ると、

「まぁ。いろいろ思うことはあるぴよ! 結果、冒険者になりたくて今こうして私たちは出会ったぴよん! きっとコレも運命ぴよよん! 私は今よりも強くなれればそれでいいぴよよん丸!」と言うと静かにその場に座った。


 三者三様の意見を心に落としながらも、腕を組み眉ひとつ微動だにせず淡々と聞いていたハマトラ。


 少女たちの思いを言葉なく、心で咀嚼する。

 なんともいえぬ重苦しい時間が辺りを包む。


 刹那。


「お前らの気持ちはよく理解した! ただこのままの戦闘体系では如何いかがなものかと思う!」


 その声を聞いた少女たちは勢いよく立ちあがり声を発した。


「それって? です!」

「どう言うこと? ぴよ!」

「なんだよ! チキショー!」


 例の如く一言ずつ順々に叫び、一つの歪な慣用句みたいなものを形成する。

 

 少女たちの純粋な心の叫びを聞いたハマトラは、今にも朽ち果てそうな丸太に腰かけていた身体を、”よっこらっしょっ”と声は出さずに口を動かしながら立ち上がる。


「このままだと俺の目指す、最強の冒険者にはほど遠いから、お前らの――んん……なんていうか。適材適所の職に就けようと思う!」


 ハマトラはいうなればだ、という雰囲気を存分に醸し出しながら、目の前の少女たちに告げる。


 しかしながら少女たちは、なにを勘違いしたのか、が下手だから見捨てられ、娼婦にするためどこかにと思い懇願する。


「もっともっともっと頑張りますですです!!!」

「恩は絶対返す!!! 倍、イヤ一〇倍……イヤ一〇〇倍だ!!!」

「どうなるか分からないぴよが、今まで以上に一生懸命ガンバルぴよよん丸!!!」


 ハマトラは少女たちに囲まれ、ある者はメロン乳を腕に押し当て、ある者は鎧からこぼれ出しているはみ乳を絶妙なアングルで見せつけ、ある者は文字通り猫のように体をすりつけながら言う。


 出会ってから今までで、見たこともないほどに切羽詰り、気迫がこもった必死の形相。

 

 ハマトラはあらかじめ決めていたすべての事情を話す。


「別にお前らを見捨てたりはしないし、今後戦闘になった時、皆が活躍し輝ける場所がいいと思い考えていた! なので急ではあるが、お前らの――する!」


 その声を聞いた少女たちはからのをいい渡された被告人と同等の、安堵を得てその場でと力が抜け、大地と臀部でんぶをキスさせた。




 ☆☆☆☆☆


 次回

 適材適所



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