第10話 12歳になる

 12歳の誕生日に女王に呼ばれた。


「ソフィア、お誕生日おめでとう。『聖剣』の名に恥じないように頑張っているそうですね」


「女王、ありがとうございます。皆、私に花を持たせてくれるのです」


「ふふ、ソフィアは謙虚なのね」


 11歳になった頃に、体力もついたので普通の片手剣を持つようになり、身長が伸びて踏み台なしでブランに乗れるようになった。


 フフ、剣の腕も上達しレオスに勝つようになったのだ。先日のレオスとの勝負は5戦中、4勝1負。なかなか全勝させてくれない。初めてレオスに勝てた時は、叫びたいほど嬉しく両手を握り締めた。その時のレオスの落胆ぶりは酷かったが、直ぐに再戦を挑まれて負けてしまったのだ。


 レオスは、フローレス王国の騎士団でNo1の実力者で、毎年行われる騎士団の剣技大会で3年連続優勝している。


 ヘンドリック様に、私も参加したいと言ったら「ソフィア様、騎士の大会ですぞ? いくら『聖剣』でも、王女の参加は困ります。成人されて騎士になるのでしたら、その時にご参加下さい」と断られた。そうか、ゆくゆくは騎士になるのも良いな。


「ソフィア、呼び出したのはね……」


 あっ、女王との謁見中だったな。集中しなければ……。


「そろそろ留学する国を決めるように。留学先の言葉とマナーを学ばないといけないですからね。でも、特に留学したい国がなければ……」


 女王に、留学せずにこの国の学園に通って良いと言われた。


「私はね、貴重な『聖剣』のギフト持ちを、他国に留学させなくても良いと思うのよ。他国の知識はアリシアとミランダが勉強するし、良い相手も探すでしょうからね。ふふ」


 私が婚約者として選ぶ相手は、国内か他国の貴族にするようにと言われた。王族なら姉上たちが選んだ相手より王位継承権の数字が大きくないとダメらしい。ややこしい……王族はパスだな。


「ソフィア、他国に留学するのならアリシアの結婚式までに決めなさい。婚約相手は18歳までに探すように」


「女王、分かりました」


 アリシアお姉様は、来月結婚式を挙げる。それまでに決めれば良いな。婚約相手は……まだ先の話だな。


 女王が合図をすると、女王の護衛騎士が長細い箱を持って来た。目の前に差し出され箱を開けてみると、中にはシルバーの鞘に入った剣がシルクの布の上に横たわっていた。剣の鞘と柄の部分に紫の宝石が飾られてある。綺麗だ……。


「ソフィア、誕生日プレゼントです。そろそろ、普通の片手剣を使い出したと聞いたので、ソフィア用に作らせたのよ」


「女王……いえ、母上、ありがとうございます。大事に使わせて頂きます」


 女王の前で剣を抜くことは出来ないので我慢するが、早く部屋に戻って鞘の中の剣を見たい。


「ソフィアの剣を見る目が輝いているわね。ふふ、気に入ったようで良かったわ。で、ソフィア……彼の方は、いかがお過ごしかしら?」


 女王が恐る恐る聞いてくる。


「特に、変わりません。気が向いた時に来られます」


 週に1~2度来られて、紅茶を飲んで帰られる。剣の相手をしてくれるのは、月に1度あるかないかで、私は1分も組み合うことが出来ない……もっと頑張らねば。レオスはバアル様の一振りで倒されて気を失うのだ。


「そう……」


 以前、私が中庭で剣の稽古している時、偶々たまたま、魔王を見かけたそうだ。その後、女王に呼び出され「ソフィアの言う通り、魔王に見えないイイ男ね。あのオーラを感じて、近寄ろうとは思わないけど……」と感想を言われた。


 ◇

 女王との謁見が終わり、部屋まで我慢できず、庭先に出て片手剣を鞘から引き抜いた。剣幅は少し細く仕上げられていた。軽く振って見ると、重さも少し軽いように思える。これなら、長時間振り回せるだろう。


「う~む、素晴らしいな!」

「ソフィア様、次の訓練から使われますか?」

「ああ、マーク、そうする。フフ、剣を手に馴染ませないとな」

「その剣がソフィア様の手に馴染んだら……勝てそうにないですね」


 フフ、レオスが嬉しいことを言ってくれる。


 部屋に戻ると、黒髪の美丈夫が優雅にお茶を飲んでいた。それを目にしたマークとレオスは、いつもは部屋の外で警備するのだが一緒に部屋に入る。


『聖剣、どこの国を選ぶのだ?』


「魔王……いや、バアル様、女王との謁見を見ていたのですね」


「うっ、バアル様がいつ見ているのが分かれば良いのに……」


 後ろで、レオスがこめかみを押さえて呟いているが、バアル様はいつも突然来られるから気にしても仕方ないぞ。


「ソフィア様、バアル様から今日は②番を仰せつかりました」


 ②番は、ラインハル産の少し酸味がある濃い色の紅茶だったな。私はこれにミルクと砂糖を入れて飲むのが好きだ。


「ローザ、ありがとう。私も同じのを頼む」


 ローザの気苦労に感謝の意を込めて微笑むと、ローザが頭を下げて部屋から出て行く。マークとレオスも、近頃では魔王の存在に慣れて、緊張はしているが警戒することはなくなった。


 人前で、『魔王』と言う言葉もなるべく使わない方が良いと思い、他に呼び名は無いのかと尋ねたら、『遥か昔、私のことをバアルと呼んだ国もあったぞ』と教えてもらった。それ以来、魔王のことをバアル様と呼んでいる。


「バアル様、留学するなら北の国にしようと思っていたのですが、女王にこの国の学園でも良いと言われたので少し考えようと思っています」


『北の国か……子供のお前には寒いぞ?』


「バアル様は私の身を案じてくれるのですか? フフ、有難い」


 私も、最近……バアル様との距離が少しだけ近くなった気がする。


『フン……違う』


 バアル様に、剣の訓練の為、強い武人が多くいそうな国に留学しようと思っていると言うと、


『確か……新しい国にも聖剣がいたのではないか?』


「良くご存じで、武装国家アルマです。私を攫おうと誘拐犯を送って来たので、留学先から外しました」


『ほお~。お前を誘拐しようとしたのか? 聖剣を集めて何をする気なのだろうな。フフフ』


「えっ……「「なっ!?」」」


 私と同じく、マークとレオスが慌てた。確かに、バアル様の言う通りだ。国に1人『聖剣』がいるだけで他国への牽制けんせいになるのに、2人目の『聖剣』を手に入れようとするのだ、何か企んでいるのだろう。戦争しか考えられないが……どの国を狙っているのだ?


 武装国家アルマは、大陸の中でも北の国と並んで領土の広い大国だ。大陸の東側にあり、南北に掛けて位置する。隣接する国は、北から北の国・帝国・南にブリエラ王国。


 戦争をするとしたらこの3国だろうが、アルマの『聖剣』は、確かブリエラ王国の出身だ。『聖剣』の家族や親族がいるブリエラ王国には手を出さないだろう。となると、仕掛ける相手は北の国か帝国。北の国だと、ウイリアム王子から情報は手に入るな。


 となると、留学先は……。

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