第9話 報告
魔王と再会した後、マークやローザ達に高貴な殿方が楽しいと思う事柄を聞いてもらったが、その多くは、お酒・美食・美しい女性との駆け引きだった。
お酒の銘柄や料理を聞いたが、魔王は……お酒と美食はいつでも食べていそうだな。10歳の私に美しい女性を紹介しろとは言わないだろう。それに、魔力を感じない普通の女性なら、あの顔を見れば放っておかない。
う~ん、分からないな。本人に聞いてみようか。レオスをソファーに座らせ、マークが見守る中、レオスの目を見て問いかけた。
「魔王、好きな物は何だ? 何が楽しいと思うのだ?」
レオスの瞳が揺れて頬を染める。
「ソ、ソフィア様……」
いや、レオス……お前に聞いたのではないぞ? すると、魔王がいきなり部屋に現れて、ソファーに座り『今は、紅茶が飲みたい』と言った。
「なっ、魔王! 紅茶……? 分かった直ぐに用意させる」
「「魔王!」」
突然、魔王が現れて驚いたが、ローザを呼んで紅茶の準備をしてもらおうか。
ローザは、部屋のソファーに座っている魔王……知らない人物を見て慌てたが、ゆっくりと言い聞かせる。
「ローザ、良く聞け……この方は、この国の方ではない。遥か昔から生きている……私の1番大事な方だ。我が母である、女王より大事な方だと思って応対するように頼む。ジーナは、完璧な侍女の仕事が出来るようになるまでは連れて来るな」
「女王様より……? ソ、ソフィア様……畏まりました」
「ローザ、理解が早くて助かる。分かっていると思うが、誰にも言うな」
ローザは深く頷いた。私が、「女王より大事」と言ったので余計に不安になったかも知れないが、魔王に粗相があっては困るからな。ローザの前では『魔王』と言う言葉もなるべく使わないようにしようか。
『ほお~、聖剣よ、私は女王より大事だと言うのか? フフフ』
「ああ、色んな意味で……私にとって貴方が1番大事だ」
『……』
ローザが驚いているが、魔王の機嫌を損ねることは出来ない。壁際でマークが神妙な顔で頷いている。レオス、珍しく顔が呆けているぞ。男前は……呆けていても男前なのだな。魔王が、何故か目を見開いて私を見ている……私の対応に満足して頂いたのか?
「ローザ、この王宮で1番良い紅茶を2~3種類入れてくれ。客人に、どれがお好みか選んでもらう」
「ソフィア様、畏まりました」
魔王の前に3つ紅茶を並べて、どれが好みか聞いてみた。
①この国最高級品のフローレス紅茶。②ラインハル王国産の高級紅茶。③シュタイン公国産の高級紅茶。
『フム、どれも良い香りだ。今日は、①番にしよう』
今日は……又、来るのだな。了解した。後でローザにも、ちゃんと説明しておこう。
「気に入ってもらえて良かった」
魔王はそれ以来、
『聖剣よ、私が剣で楽しめるまで時間が掛かりそうだな。フフ』
「くっ、精進します」
近頃では、週に1~2度来られるようになった。
◇◇◇
レオスを扉の外で待機させ、マークを連れて謁見の広間に入る。
「女王、謁見の時間を下さり、ありがとうございます」
「ソフィア、堅苦しいのはいいわ。今回は宰相も一緒にとは珍しいわね。補佐のウイリアム王子も一緒だけど良かったかしら?」
女王の近くに、宰相のラヴァール侯爵と補佐をしている金髪碧眼のウイリアム王子がおられた。アリシアお姉様の婚約者……初めてお会いする。挨拶をしたいが、今は女王との謁見なので会釈だけにした。
「はい、構いません。ただ、これから話す内容は、出来れば……他国は勿論ですが国内の貴族にも知られたくないのです。ご了承いただけますか?」
「まあ、ソフィア。そんなに
「ええ、この国が吹き飛ぶほどの話です……宰相とウイリアム王子には、他言しないと誓約書を書いて欲しいくらいです」
真面目に答えると、宰相がふざけたことを言うなと言わんばかりに目を見張る。
「何ですと……ソフィア殿下が冗談を言うとは知りませんでしたな。ワハハハ」
「宰相殿、ソフィア王女の話を聞かなくては……」
笑い声を上げる宰相に、隣にいるウイリアム王子がやんわりと注意している。ウイリアム王子は、ラヴァール侯爵より良い宰相になるのではないか? 宰相には、私が話すことが真実だと分かった後でも笑っていて欲しいな。
「フフ、宰相には笑える話なのかも知れませんが、簡単に申し上げます」
女王は、「何を話すのかしら?」と楽しんでいるように見えた。宰相は「忙しい私を呼び出して、つまらぬ話だったら許さんぞ」と顔に書いてある。ウイリアム王子は……優しい微笑みで私を見ている。
「実は先日、王都から南にある川へ行った時に、偉大な魔法使いにお会いしました。大きな火柱と焼け野原の跡が報告されていると思いますが……彼は、遥か昔『魔王』と呼ばれた方で、時々、遊びに来られるようになったのです」
3人の顔が面白い。女王は、私の言葉を理解出来ていない様子でポカンとしている。宰相は、「焼け野原の跡」と言ったので、事の重大さが分かったようだ。ウイリアム王子は、顔が引きつり大声を上げた。
「なっ、ソフィア王女! 『魔王』が復活したんですか!?」
あぁ、北の国では魔王の話が伝承されているのか。この国の歴史は浅いから、魔王について書かれた本はなかった。
ウイリアム王子に頷きながら話を続ける。
「はい、その通りです。彼の方は、この国に害をなそうとは思っておられません。が、向かってくる者に遠慮はしない方です。焼け野原の跡を見れば分かると思いますが、その魔力は計り知れません。私の部屋や庭で見かけても放っておいて欲しいのです」
女王が首をかしげた。
「ソフィア、その方は……あなたの部屋に来るのですか? 何用で?」
「お茶を飲みに来られたり、剣の稽古中に現れるのです。今、その存在を知る者は私を含めて5名ですが、最近、来られる回数が増えたので、他の者の目に留まるかも知れません。彼の方に、ちょっかいを出されると困るので報告に来ました」
魔王が一人で王宮を出歩くことはないと思うが、見かけても声を掛けないようにお願いした。
「何かの不手際で、彼の方の機嫌を損なって王宮を吹き飛ばされたら困りますから……女王と宰相が、事実を知っていれば良いかと思い時間を頂きました。どこかから話が漏れて、腕試しの者が側に来ないようにお願いします」
「王宮を吹き飛ばすだと!?」
「宰相、北の国には……昔、魔王が作った湖があるんです。魔王なら……街ごと吹き飛ばすのも
えっ、湖!? ウイリアム王子の言葉に驚いたが、彼の言う通りだと頷いた。もし、彼の方に会いたいと言われても、私は一切、
「ソフィア、分かったわ。その方の特徴は教えてくれるかしら? ソフィアの客人として、王宮の警備に最重要事項として連絡するわ。見かけたら、頭だけ下げて決して声を掛けないようにと……」
確かに、どのような容姿なのか伝えなければな……魔王の姿を思い浮かべ説明した。
背が高く、漆黒の髪に赤い瞳……褐色の肌に整った顔。人間にしか見えない美丈夫で、その存在感・威圧感は見る者を驚かせ、オーラのような魔力が溢れ出ていると伝えると、女王が目を輝かせて言う。
「ソフィア……会って見たいと思わさないで欲しいわ」
「「女王……」」
「母上……」
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