第3話 ギフト

 王宮に戻ると、母上である女王に呼ばれた。


「ソフィア、ギフトが『聖剣』だったと聞きました。だから剣を欲しがったのかしら……。この国では、過去に『聖剣』のギフト持ちは産まれていないのよ。あなたが初めての『聖剣』です」


「母上……いえ、女王。剣の訓練をしたいのですが、宜しいでしょうか?」


「まあ、ソフィアは騎士になるのですか?」


「いえ、神から頂いたギフトを大事にしたいと思っているのです」


 女王は、まじまじと私を見るが、迂闊うかつなことは言えない。『聖剣』ではなく『聖剣Ⅱ』だったことや、他にもギフトがあるなどとは……司祭に見えなかったのだから、言っても信じてもらえないだろう。


 剣の先生を付けて下さると言うので、元騎士団で経験豊富な方をお願いした。若いと10歳の私より弱いかも知れないからな。


 翌日から、1人だった私の護衛騎士が2人になった。『聖剣』が幼いと、他国の間諜にさらわれる可能性があるそうだ。新しく私の護衛に加わった騎士は、背が高く、黒い髪で褐色の瞳をしていて、20歳になるマークより年下に見える。


 今、この大陸には大小7つの国があるが、現在の『聖剣』のギフト持ちは1名。小さな国で生まれて、武装国家に引き抜かれたと図書館で見たギフトの調査資料に書かれていた。『聖剣』は、私で2人目だ。


 王宮の図書館には、自由に出入り出来るので気になることは調べるようにしている。辺境伯の娘だった頃は、剣の訓練ばかりで勉強を頑張った記憶がない。調べる癖を付ければ、勉強が好きになるかも知れないからな。


 それと、この国の図書館には魔王に関する書物は無く、子どもが読む絵本に少し書かれている程度だった。この国の歴史は150年程で、私が魔王討伐に向かったのはこの国が出来る前だったのだろう。あの頃、この国はなかったからな。


 ◇◇◇

 数日後には剣の先生が付けられた。元第一騎士団の隊長、ヘンドリック・アーネスト侯爵。アーネストの爵位は嫡男に継がせて、今は隠居生活を送っているそうだ。王女教育があるので、二日おきに剣の練習に付き合ってくれることになった。


 動きやすいようにシャツとスラックスに着替え、護衛騎士達を連れて庭に出ると、片手剣を腰から下げた、白髪交じりの壮年の貴族が待機していた。


「ヘンドリック卿ですね。私の剣の訓練に付き合ってくれてありがとう」


「いえ、『聖剣』であるソフィア殿下の成長を見ることが出来るとは、役得でございます」


「殿下は堅苦しいな。ヘンドリック様と呼ぶから、ソフィアと呼んでもらっても良いだろうか? それとも、先生と呼んだ方が良いかな?」


「なんと……ソフィア様、ヘンドリックとお呼び下さい」


 王宮の庭で軽く素振りから見てもらった。だいぶ身体が動くようになったので、そこらの騎士に負ける気はしない。


「ソフィア様……形が既に出来上がっておりますな。剣の訓練は何時からされているのですか?」


「2年前、女王に片手剣を頂いた時から、一人で素振りをしている」


「お一人で……素晴らしいですな」


 その後、2人いる護衛騎士と手合わせをすることになった。元からいる護衛騎士マークは、隙が多いので余裕で勝てた。私の素振りを見ていた護衛だが、私に負けて呆然としている……悪いが、私が手を抜くことはないぞ。フフ。


 次は、新しく護衛になった騎士。こいつは……ぐっ、かなりの使い手だ……まさか、勝てないとは! 力と持久力がないのは分かっているので、早めに勝負を付けたかったのだが、息が上がってしまい情けない……。


 新しい護衛の名前はレオスと言うのか。17歳だと……ぐっ、魔王に惨敗した時より悔しいではないか……今夜から練習量を増やす!


 後日、マークから聞いた話だが、レオスは今年度の騎士団の剣技大会で優勝したそうだ。その実績で、若いが私の護衛に選ばれたらしい。そうか、この国のNo1の腕前なのか……近い内に私がその座に就くからな!


 ◇◇◇

 他国を訪問していた第一王女のアリシアお姉様と、帝国の学園が長期の冬休みに入った第二王女のミランダお姉様が帰って来た。初めての、3人揃ってのお茶会だ。


「ソフィア、ギフトが聖剣だったんですって? 凄いわね!」


「お姉様、私も聞いた時は驚きましたわ~! ソフィアは剣の練習をしているんですって?」


「はい。私のことより、お姉様方のお相手の話が聞きたいです」


「まぁ! ソフィアも気になる年頃になったのね。良いことよ。ふふ」


「ソフィアは、まだ10歳なのにね~。私も、お姉様のお話が聞きたくて時期を合わせて帰って来ましたの。ふふふ」


 いや、お姉様方のお相手次第でこの国の未来が決まるのだ。この国には、希少な鉱石が採掘される鉱山がいくつもあって、それ故に他国から狙われている。過去には侵略を受けたこともあると、図書館で読んだフローレス王国の歴史書に記載されていた。


 アリシアお姉様は、ため息をつきながら話し出した。


「留学先のラインハル王国に、有能な王子がいたのですけどね……他国にも招待されたので訪問しましたが、招待するだけあってどの国の王子も優れた方だったのよ。やっと、候補者を2名まで絞ったわ……」


「まぁ! お姉様、もうお決めになるのですね」


「アリシアお姉様、お相手をお決めになられた後、どうしてその方を選んだのか教えて下さい」


「そうね。ソフィア、決まったら教えるわね。ふふ。ミランダにも、他国のお誘いは来ているのでしょ?」


 この国と婚姻関係を持てば、希少な鉱石を優先的に安く購入出来る。だから、入り婿でも他国の王子からの婚約の申し込みが多いのだ。何と言っても、婚約相手を選ぶ基準が国ではなく、王子個人の能力だから尚更なおさらだ。小国でも希少な鉱石の売買で国が潤うのだからな。


「ええ、お姉様。他国からも、お見合いのお話は来ているんですけど……帝国の第五王子が魅力的なの~」


「ミランダお姉様、それは顔が良いと言う意味ですか?」


 素直に聞いてみたら、ミランダお姉様は目を泳がせて頭が良いのだと言う。怪しい……。


「ミランダ、他国のお見合いも行きなさいよ。婚約者を決める18歳まで、色んな国を訪れた方が良いわ。勉強になるからね」


「ええ、お姉様の言う通りね。他国にも、素敵な方がいらっしゃるかも知れませんものね!」


 あぁ、次の女王はアリシアお姉様だな。ミランダお姉様では危ない……余程良いお相手なら可能性はあるが……数日後、ミランダお姉様宛に帝国からパーティーの招待状が届き、ミランダお姉様はそのパーティーに参加する為に帝国に戻られた……忙しいな。


 私が留学するまで、まだ3年ある。それまでは、『聖剣』のギフトに恥じないよう、剣の鍛錬に励むつもりだ。


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