第2話 初めて王宮から出た

 その後、周りの侍女達の話を繋ぎ合わせると、私が生まれた家は貴族ではなく、フローレス王国の王家だった。フローレス王国……初めて聞く国だ。


 母親はこの国の女王で、私には姉が2人いるらしい。女王は、綺麗な銀色の髪に紫の瞳の美しい人で、鏡を見ると私も同じ色の髪と目をしている。時々、私に会いに来るのだが、優しく微笑む彼女は3人の子がいるようには見えない。


 女王と付き人の話に耳を傾けると、この国は女系の王国で、代々、有能な他国の王子や貴族を婿むこに迎えて国を統治しているそうだ。私の父親は隣国出身の王子で、去年病気で亡くなったらしい。


 第三王女の私は、有力な貴族か大国の後ろ盾をもらう為に政略結婚させられるそうだ。そうか、了解したが……これまでの人生、結婚どころか恋愛の経験もないのだが……大丈夫だろうか。


 ◇◇◇

 ふむ、5歳を過ぎたが……教会に連れて行かれることもなく、時々、庭園を散歩する程度だ。ギフトを調べに行かないのかと、私付きの侍女ローザに聞いてみた。


「ソフィア様、神から与えられるギフトは、産まれた時に持っていると言われていますが、10歳の誕生日に教会で調べるのです。早くに調べても、その後の環境でギフトが変わることもあるのですよ」


 何! ギフトは変わるのか……初めて聞いたぞ。今回、王族に生まれたのなら、5歳でギフトの判定を受けるだろうと思っていたのだが……10歳まで何をして時間を潰そうか……。


 身体を鍛えて剣を振ることしか思い浮かばないな。先ずは毎日歩いて、部屋の中を走って体を鍛えようか。部屋は運動するのに十分な広さがあるし、汗をかいても部屋に風呂があるから問題ない。


 ◇◇

 ある日、王宮の庭園を歩いていると、侍女と護衛騎士を連れた可愛い女の子が散歩をしているのが見えた。そして、私を見つけると微笑んで声を掛けて来た。


「まぁ、可愛い~! あなたがソフィアね。私は第二王女ミランダ。あなたの姉様よ。ふふふ、よろしくね」


「ミランダお姉様、ソフィアです。よろしくお願いします」


 この可愛い女の子が第二王女か……ミランダお姉様は、ウエーブの掛かった金色の髪で紫の瞳。髪の色は父親に似たらしく、優しそうな眼差しの10歳の愛らしい女の子だった。


 第一王女のアリシアには、まだ会ったことがない。彼女は13歳になったので、他国の知識を得る為と有能な婿探しの為、隣国のラインハル王国に留学しているそうだ。ミランダお姉様も私も、13歳になったら他国に留学することが決まっている。希望する国があれば申し出ても良いらしい。留学……私は勉強より、身体を動かす方が得意なのだが。


 次期女王は、2人の姉のどちらか。本人と連れ帰った配偶者で決まるらしく、人の上に立てる者で、自分の欠点をカバー出来る相手を探せと言われているそうだ。


 ◇◇◇

 ミランダお姉様が13歳になり、留学先に選んだのは、なんと帝国だった。第一王女アリシアが留学したラインハル王国の向こうにあるそうだ。私は、てっきりあの戦争で滅んだと思っていたが……帝国は、まだ存在していたのか。


 ミランダお姉様の留学と入れ替わりに、第一王女アリシアがラインハルの学園を卒業してフローレス王国に戻って来ると、直ぐに妹の私をお茶会に誘ってくれたのだ。彼女も、母上と同じ銀色の髪に紫の瞳をしていた。


「まぁ! 可愛いわ~。ソフィア、お母様にそっくりね。ゆっくり、お話ししたいのだけど、数日したらお見合いをしに他国に行くのよ。ふふ」


「そうですか。アリシアお姉様は、お忙しいのですね。色々とお話を聞きたかったのですが……」


 そう言うと、アリシアお姉様は、出発する前日まで毎日お茶に誘ってくれた。何と、良い殿方の見分け方をレクチャーしてくれるのだ。人には裏表があるから、今から周りを良く見て観察するようにと教えて頂いた。


 私には全く経験のない話なのでとても有難かった。8歳の妹の相手をしてくれる優しい姉だ。是非、良い人を見つけて欲しいものだ。


 アリシアお姉様が旅立って直ぐに、私の王女教育が始まった。先ずは、文字の読み書き……む、知らない文字だ。会話が出来るのに文字が読めないとは……帝国の文字なら分かるのだが。


 次に、この国の歴史。自国の立ち位置、他国の情勢なども絡めて教わっているのだが……難しいな。


 ◇◇◇

 そろそろ、身体も出来て来た。女王に、剣を使えるようになりたいとお願いをしたら驚かれたが、特注の子ども用の片手剣をプレゼントして頂いた。有難い。


 それからは、毎日部屋で鍛錬している。外で訓練すると、金髪で茶色の目の護衛騎士が微笑みながら見るからだ。騎士の名はマーク……今だけだぞ、直ぐにお前を追い抜くからな! 最近、剣の扱いが少しさまになってきたと思うのだ。


「ソフィア様、なぜ剣を振り回したいのですか?」


「ローザ、いざという時、自分の身を守れた方が良いだろう?」


 侍女のローザは、しっかりしていて頼れるのだが……細かいのだ。私より12歳年上らしい。


「ソフィア様、話し方をもう少し女の子らしくされた方が……」


「この話し方が楽なのだ。外に出たら、ちゃんと王女らしく話しているだろう?」


 そう言われれば、口調は初めの頃から余り変わっていないが、問題ないと思うぞ?


「ソフィア様、時々ボロが出ていますから気をつけて下さい」


 ローザ、これが私だ。慣れてくれ。


◇◇◇

 それから2年が経ち、ようやく10歳になったので、ギフトを調べることになった。初めて王宮から出て、王都内にある教会に行くと、お年を召された司祭が出迎えてくれた。


「ソフィア殿下、ようこそおいで下さいました。水晶の間へご案内致します」


 司祭について水晶の間に入ると、中央の祭壇に大きな丸い水晶が飾ってあった。司祭が水晶の向こう側に立ち、水晶に手をかざすように言われた。


 水晶の前まで進み、大きな丸い水晶に手をかざすと、フワッと水晶から光が放たれた。「「「おぉ!」」」っと、どよめきが起こり、司祭が目を凝らして水晶を見ている。


「おお! ソフィア殿下、水晶をご覧くだされ。『聖剣』の文字が見えますぞ!」


「えっ、司祭……私のギフトは『聖剣』ですか!?」


 『聖剣』だと……部屋で毎日、剣の訓練をしていたからか! 沸き上がる気持ちを抑え、水晶を覗いて見ると……


【ソフィア・フローレス:聖剣Ⅱ・隠匿いんとく・鑑定】


 うん? 私にはギフトが3つ見えるのだが……それに、『聖剣Ⅱ』のⅡとは何だ? 2回目と言うことか? レベル2だったら嬉しいが……。


「えっ、司祭……これは?」


「おっと、ソフィア殿下には難しい文字でしたかな。失礼いたしました。『せいけん』と読むのですよ。フォフォフォ」


「え? そうですか……ありがとうございます」


 それは読めるが……どうやら、司祭には他の文字が見えないようだ。隣のギフト『隠匿』が隠しているのか? 


 もしかすると、他の2つのギフトは、記憶にある前世の1回目・2回目にもらったギフトかも知れない……記憶が残っているから、ギフトも残っているのか? ギフトは、産まれた時にもらうと言われているからな。


 ということは……今回のギフトで2回目の『聖剣』がもらえたから、『聖剣Ⅱ』になったのかも知れないな。きっとそうだ、めでたいな!


 また『聖剣』として生きていけるとは……魔王よ、この呪いは嬉しいではないか!

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