聖剣の転生~『拝啓、魔王殿』

Rapu

拝啓、魔王殿

第1話 目覚め

 この世界に、1つの大陸があった。


 大地には険しい山々や深い森が至る所にあり、この自然豊かな大陸には動物や人間、それと異なる種族の生き物が住んでいた。


 この大陸に多くの国が生まれたが……今は、長い歴史を持つ国や新しく出来た国など、大小7つの国がある。


 そして、大陸の南西にあるフローレス王国で、一人の幼子の記憶が目覚めた。



 ※     ※     ※


 ボーっとしていた意識が、はっきりして来る……あぁ、呪いは解けていないのだと分かった。前世の記憶があるからだ。


 ゆっくり周りを見渡すと、見るからに高級な調度品が並んだ広い部屋……今度は貴族か? 一人で歩けるようになる頃に意識がはっきりして来るのだ。そして、過去の記憶……自分が、聖剣の女騎士だったことを思い出す。魔王め。



 前世の記憶を思い出した時、訳が分からず感情が高ぶり泣いていたら、男に殴られた。私は、その男の子どもらしく、その男はスラムを拠点に裏の仕事を生業なりわいとしていた。母親らしき女性はいなかった。


 私が6~7歳になった頃、盗みを覚えろと教え込まれたが、騎士の記憶を持つ私には無理な話で実行は出来なかった。そうすると、


「役立たずのガキが!」


 男から毎日のように殴られた。このままでは死ぬと思い逃げ出したが、孤児院を探して歩いていたら、頭に殴られたな痛みを感じて……その後の記憶がない。


 2回目は、帝国の王都にある武器商人の家に生まれた。兄が1人と姉が2人いたが、父親は貴族との繋がりを持ちたくて、成人した姉達を貴族の妾や愛人にと差し出していた。次は私かと諦めていたが、私が10歳を迎える前に両親は流行り病で亡くなった。


 兄は、手広く商いをしていた父親の店を小さくし、身の丈に合った経営を始めた。私も兄を手伝っていたが、若い商人だと舐められることが多かった。


 父親の頃からの取引先でも、偽物や粗悪品を良品だと偽って持ってくるやからがいたが、何故か、私がそれに気付いて剣でたしなめた。両親が亡くなってからは、兄に頼んで店に並んでいる剣を1つ貰い受け、毎日、剣の訓練をしたのだ。お陰で、13歳になる頃には騎士並みに剣を使えたからな。


 間もなく、兄が結婚し子宝にも恵まれた頃、帝国が隣国と戦争を始めた。徐々に戦況が悪くなり、帝都にまで戦火が近付いた……ついに、隣国の兵が街にまで入って来て、兄の子どもを守って弓矢を受けたまでは覚えている。


 そして、今回で3回目だ……誰かが入って来た。メイド服を着た侍女らしき女性。


「ソフィア様、お目覚めになりましたか? お着替えしましょうね」


 なんと! 今回の名前はソフィアなのか。



 この世界では、誰もが神からギフトを与えられて産まれて来る。10歳になると、教会でギフトを調べることが出来るが、王族や貴族はお布施をして5歳で調べるのが慣例だ。


 まれにギフトを2つ与えられる者もいるそうだが、珍しいギフトは国に報告され、それぞれのギフトに会った教育を受けることが出来る。これは初めの記憶、帝国での話だが……。


 ◇

 初めの記憶は――私は帝国の辺境伯の娘ソフィアとして産まれた。そう、今回と同じ名前だ。


 5歳でギフトを調べに教会へ連れて行かれ、そこで、私のギフトが『聖剣』だと分かり国に報告されたのだ。父上はことのほか喜び、娘である私が聖剣の名に恥じぬようにと、幼い頃から腕の良い先生を付けてくれた。


「ソフィア、お前は好きなだけ剣の鍛錬をすれば良いのだぞ」


 私は父上の思いに応えようと、幼い頃から剣の訓練に明け暮れる日々だった。


 そして、私が成人して騎士団に入った頃、魔王が覚醒したと言う噂が広まった。その影響か、魔物があちこちで活性化し暴れ始めた。魔物は、森に草原……どこにでもいたからな。


 帝国は、国内外にいる勇者・聖剣・魔法使い・聖女のギフト持ちを集めて、魔王討伐に向かわせることにした。その時、聖剣のギフト持ちは私しかいなかったので、私もそのメンバーに選ばれたのだ。


 数年掛けて、やっと魔王の居場所を突き止めた。戦いを挑んだが、力の差は歴然で、倒すどころかダメージ1つ与えられなかった。寄せ集めのパーティーでは、連携するにも無理があったのかも知れない。


『お前は……ほお、綺麗な太刀筋だな。お前は聖剣か? 気に入った。お前に、面白い【呪い】を掛けてやろう。呪いを解いて欲しければ私を探せ。フフッ、私に会いに来い。聖剣の娘よ』


 漆黒の髪をなびかせる褐色の肌の魔王は……美丈夫な人間にしか見えない風貌で、笑みを浮かべながら私に何かの魔法を掛けた。黒い霧のような物に包まれ、そこから見える魔王の真っ赤な瞳が印象的だった……。


しばらくは寝るが、お前が探しに来たら起きてやろう』


 そう言って、魔王は大きな魔法を放った。私が聖剣だった最後の記憶だ。


 そして、又、聖剣からの記憶を持って生まれた……これが魔王の掛けた「呪い」のようだ。1回目も2回目も、生きるのに必死で早くに死んだが、今回は少し調べてみようか。


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