第4話 これは呪いなのか?

「ソフィア様、マーク、そこまで! マーク、かなり上達したな」


「ヘンドリック卿、申し訳ございません……ハァ、ハァ」


「マーク、今の騎士団でソフィア様に勝てる者など数名しかおらんよ。今の調子で鍛錬に励めば良い」


「ハッ、ありがとうございます!」


 マークは、初日に私にあっさり負けたのが悔しかったのか、最近メキメキと腕を上げた。私も練習量を増やしているが、まだレオスに勝てないのだ。だから、マークの気持ちは良く分かるぞ。


「次はレオス、私の相手を頼む」


「はい。ソフィア殿下、よろしくお願いします」


 勘を取り戻して、しばらくは良い感じに組み合えているのだが、10分もすると力負けして息切れして来る。む~、10歳ではここまでか。


「そこまで! ソフィア様の成長が素晴らしいですな」


じきに、ソフィア殿下に打ち負かされてしまいそうですね。私も鍛錬しなければ」


 レオスめ、息切れ一つしていないくせに……今夜から、更に訓練を増やそうか。


◇◇◇

 ある日、宰相のカーティス・ラヴァール侯爵から、不穏な輩が王国内に入って来ているから護衛を増やすと言われた。40代の宰相は頭の良さそうな切れ長の目をしている。


 私が王宮から出ることはないので、私に付けるより出入りのチェックを強化すべきではないのか? 私の護衛は2人で十分だ。


 後日、私の護衛騎士を決める模擬戦が行われ、ヘンドリック様と一緒に見に行ったが、マークは候補者達を余裕で倒していた。良くやったマーク、これで宰相のラヴァール侯爵に追加の護衛騎士を断ることが出来るな。マークより弱い護衛などいらぬと言おう。


 マークが見事に勝利したので、以後「殿下」と付けなくて良いと言ったら泣いて喜んでいた。あっ、レオス、お前も付けなくていいぞ。



 ◇◇◇

 遂に、アリシアお姉様の婚約が決まった。お相手は北の国の第二王子20歳で、近く王国に来るそうだ。アリシアお姉様に北の国の王子を選んだ理由を聞くと、


「私に何かあった時、どちらの王子にこの国を任せられるかって考えたのよ。ソフィア、私はね、自分と似た考え方をする北の国の王子を選んだの」


 ほお~、アリシアお姉様は、弱点を補う相手ではなく、考え方の同じ相手を選んだのか。


 私の未来は、有力な貴族か、大国の後ろ盾を得る為の政略結婚だったが……私が『聖剣』のギフトを手に入れたから、他国へ嫁ぎに出ることはないだろう。女王からはまだ何も言われていないが、どのような相手を選べと言われるだろうな。フフ。


 ◇◇◇

 王女教育の後、今日は剣の稽古がないので王宮の図書館に向かった。ギフト『隠匿』と『鑑定』の効果を調べようと思ったのだ。


 【ギフト『隠匿』:与えられた者の環境によって違いがある。自分のギフトを見えないように隠せたり、自分の存在・気配を消したり出来る者もいる。物を隠すのが上手くなる。】


 これは、きっと1回目の時に授かったギフトだな。ギフトを隠せるのは有難いが、自分の存在を消すとはどういう意味だろう? 気配を消すことも出来るのか、これは使えそうだな。練習してみようか。次は……


 【ギフト『鑑定』:専門的な知識がなくても、おおよそのアイテムの評価・判断が出来る。個人差はあるが、頭にアイテムの名前や説明が思い浮かぶ者や、人を鑑定出来る者もいる。】


 これは、2回目が商人の娘として産まれたから、その関係のギフトか? 2回目の時、両親が亡くなってギフトを調べなかったが……そう言えば、偽物や粗悪品が分かったし、嘘を見抜く自信はあった。これも訓練すれば、かなり有能なギフトだな。


 次は、私の留学先を考えようか。留学先の条件として、①剣の稽古が出来る国。練習相手に困らない、強い騎士がいる国が良いな。②魔王について調べたいので、歴史のある図書館がある国。


 まぁ……②はどちらでも良い。魔王の「呪い」だが、このままでも問題ない気がするのだ。今、とても充実した日々を送っているからな。


 マークとレオスに、強い騎士が多くいそうな国を教えてもらった。


「ソフィア様、武力で言うなら武装国家アルマだと思います。今、『聖剣』がいますからね」


 マークが言う武装国家アルマは、昔なかった国だ。聖剣がいるのか……面白そうだが、先にレオスを倒さないとな。


「ソフィア様、北の国の武力も脅威です。武装国家アルマとの小競り合いに負けていませんから」


 レオスが言った北の国は知っているが、ここで帝国の名前が出て来ないのか……私が聖剣として生きていた頃は、武力に力を入れていたのだが……。留学先は、北の国か武装国家アルマ……う~ん、13歳までにどちらか決めれば良いだろう。


 今の『聖剣Ⅱ』の命を終えて、また何処かで生まれたら、記憶を思い出すのだろうか……そうすると、私のギフトや知識が増えて、どんどん生きやすく強くなる気がする。これは呪いなのか? 魔王からのギフトに思えて来た。感謝するべきだろうか……



『拝啓、魔王殿


 貴殿の掛けてくれた「呪い」のお陰で、貴重な体験が出来て感謝している。探しに来いと言われたが、この人生を楽しむことにした。魔王よ、しばらく、そのまま寝ていてくれ。聖剣持ちのソフィア』


 送り先のない手紙を書いてみた。あっ、『敬具』を書き忘れたな……まぁ、良いか。今は書き方も変わっているかも知れないな。王女教育の先生に手紙の書き方を教えてもらわないと。フフ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る