推理
「まあ、何をおっしゃるかと思えば……冗談がきついですね」
「香取先生。あなたは『私は探偵にはなれません』と言っていました。ふと思い出したんです。『探偵は犯人にはなれない』って、何でしたっけ、何とかの十戒……」
「ノックスの十戒ですか。でもそれは推理小説の決まりごとに過ぎませんよ」
「もちろんそうです。でも、先生が犯人と仮定すると色々なことが辻褄合うんです。まず先生は接見に来た時から事件のあらましをご存知でした。あの段階で警察が捜査情報を漏らす筈はない。すなわちあれは『秘密の暴露』です」
「弁護士の情報網を甘く見ないで下さい。警察が語らずとも事実の把握くらい出来ますよ」
「それと、僕がスタンガンを持っていたことを知っていたのは、販売した業者、由香子、そして香取先生の三人だけです。このうち誰かが僕のスタンガン所有を新玉さんに教えるとしたら、香取先生しか考えられません。業者は論外、由香子はスタンガン発見以来新玉さんと接点はありませんから」
「もしそうだとしても、どうして私には新玉さんに言う理由がありませんよ」
「無論、殺人計画のためです。ターゲットに凶器を所持させておけば、自らそれを運ぶ手間とリスクが省けます。そして当日、先生はそれを使って犯行に及んだ……ネイビーのスーツを着たのは濡れても目立たないためですね。そうして先生は捜査の目をくらまし、容疑を僕に向けさせることに成功したのです」
「私はあなたの無実を晴らすために尽力し、その結果あなたはここにいる。そのことを忘れたんですか!?」
「僕を犯人に仕立て上げるのが先生の目的じゃなかった。弁護をすることで取調べに関与して捜査をコントロールし、その矛先を自分から逸らすことが出来る。スケープゴートは僕である必要はない。女癖の悪い新玉を恨むような、数多の女性たちに疑いを向けさせればいいんです」
「全てはあなたの憶測、証拠がありません。しかもこんな密室で推理を語るなんて、……ミステリー小説なら死亡フラグですよ」
香取は冷たく妖しい笑みを松浦に向けた。
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