娑婆
「もう帰っていいですよ」
その一言だけで何の説明もなく、松浦は釈放された。果たして容疑が晴れたのか、今ひとつモヤモヤして確信がない。
家に帰って天井を見上げると、水漏れの痕がしみになっている。
「長かった……」
ソファーに腰掛けると、一気に疲れがドッと噴き出した。このまま眠るにも疲れ過ぎていた。ただボーッと宙を見つめる。
その時、ピンポーンと呼鈴が鳴った。香取が訪ねて来たのだ。
「釈放おめでとうございます」
「はい、お世話になりました。……でも、あまり実感がないんですよ。いつまた後ろに手が回るか……心のどこかにそんな恐れがあります」
「大丈夫ですよ。スタンガンも、あなたの逆襲に警戒した新玉さんが盗んだと判明しましたし、警察も女性関係の怨恨の線で捜査を進めています」
「そうですか、少し安心しました」
「それで早速で申し訳ありませんが、こちらが報酬の請求書となりますので……」
「はい、拝見します」
松浦は請求書を見た。大方想像はしていたが、かなりの高額だ。
「では私はこれで」
と帰ろうとする香取を、松浦は引き留めた。
「ちょっと待って下さい。ひとつお聞きしたいことがあります」
「聞きたいこと……ですか?」
香取が振り返った。
「ええ。新玉さんを殺したのって……香取先生、あなたですよね」
その時、香取の顔が一瞬引き攣ったのを松浦は見逃さなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます