マキ

 聞き込みの結果、〝マキ〟の素性が特定された。

 名前は堀口真紀。食品加工会社に勤務する派遣社員で、予備自衛官補でもあった。事件の日の前後は5日間訓練で駐屯地に宿営しており、必然的に容疑から外れた。

「訓練から戻って来たら、彼の訃報を聞いてびっくりしました」

「その割には随分サバサバしてるな」

「彼とはちゃんと付き合ってたわけじゃないんです。まあ、世間並に男と女ではありましたけど、正直、愛とか恋とか、そういうんじゃなかったですね」

 猿渡はよくわからんという体で首を傾げながら質問を続けた。

「その新玉とはどうやって知り合ったの?」

「訓練一段階の時でした。彼はそれから予備自衛官は辞めてしまいましたが、それからも会うようになりました。一緒にいて楽しかったけど、好きにはなれなかったですね。女関係はだらしなかったし、口先ばっかり威勢を張っている割には気が小さかったし。被害妄想も半端なかったですよ」

「どんな被害妄想?」

「下の住人が苦情に来たことがあるんですが、それ以来『あいつヤバイ、俺のこと恨んでる』とか言ってマジキモかったです。あ、これ言っていいのかな……挙げ句の果てにその人の家忍び込んで、スタンガン盗んで来たんですよ。まあそんなもの持ってる下の住人も住人ですけど……」

 猿渡の目つきが鋭くなった。

「新玉が松浦のスタンガン盗んだ!? それは確かなのか?」

「ええ、私もそれ、見ましたから。『あいつはこれで俺を狙っていた』とかほざいていましたけど、マジ、小っちぇえ奴と思いました」

 皮肉なことだが、新玉は自分を守るために盗み出したスタンガンで、逆に命を落とすことになったのだ。事件の真相解明の兆しが見えたことで、猿渡は色めき立った。

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