由香子

 ところが、次の取調べで猿渡の口から出た言葉は、松浦を失望させた。

「あなたの家のドア、念入りに調べさせてもらったけどピッキングの痕などはなかったよ。スタンガンが空き巣で盗まれた線は弱くなったな」

 肩を落とす松浦を、香取が目で励ました。そして松浦は思い出したように言った。

「そ、そうだ、僕は時々鍵をかけ忘れて出かけることがあったんです。それで別居中の妻から再三注意されていましたから……彼女に聞いてみたら証言してくれると思います」

「身内の証言には信憑性がない」

 そこで香取が口を挟んだ。

「身内と言っても係争中の相手ですから、彼に忖度はしませんよ」

「わかった、そっちの方も聞き込みしておこう」


✴︎


 猿渡は松浦由香子のパート先であるスーパーマーケットを訪ねた。由香子は刑事がやって来たことに迷惑そうな様子だ。

「もうすぐ仕事が終わりますから、それからでいいですか?」

 猿渡は承諾し、近くの喫茶店で由香子の仕事が上がるのを待った。そうして相棒の刑事と無駄話で暇つぶしをしている間に由香子がやって来た。

「お待たせしました。お聞きになりたいことは何ですか? 手短にお願いしたいのですが」

 当然だが、殺人容疑者の身内として警察の聞き込みは歓迎し難い。

「それでは……松浦さんは良く鍵をかけ忘れることがあったとか?」

「……ええ、私も何度か注意したんですけど、松浦はなかなか直してくれなくて、本当イラつきました。ゴミは分別しないし、服は脱ぎ散らかすし、子供の世話だってろくにしてくれないし……」

 と由香子の話が妙な方向に向かうので、猿渡は軌道修正を試みた。

「松浦さんは、新玉さんをどう思ってた?」

「良く思っていない感じでしたが、あの人、あまりそう言うこと言わないんですよね。不良少年にカツアゲされたことも後で知りました」

「あなたから見て、新玉さんはどんな人?」

「見るからにヤンチャそうで、色々な女が取っ替え引っ替え出入りして、なんか自堕落な印象でした」

「色々な女……ね」

「特に〝マキ〟って女、しょっちゅう見かけました」

 猿渡は相棒と顔を見合わせた。そのマキと言う女から何かわかるかもしれない。

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