立ち会い
翌日、取調べには香取弁護士の立ち会いが認められた。前述の通り、日本では異例なことだという。猿渡は忌々しそうに香取を横目で見る。
「立ち会いは認めますが、取調べを妨げるようなことがあれば即刻退出してもらいますよ」
「はい、心得ております」
香取は殊勝に受け応えた。下手に捜査官の機嫌を損なうのは得策ではない。
「では松浦さん、あなたは以前に新玉さんとトラブルがあったそうですね」
「トラブルと言う程ではありません。夜中にうるさくしていたことがあったので苦情を言いに行っただけです」
「しかし新玉さんはそのことで逆恨みし、あなたに嫌がらせをするようになった、違いますか」
「別に何もされていません」
「いや、ご近所の話だとね、あなたがたがすれ違う時、新玉さんはあなたを睨み、あなたはそれに怯えている様子だったそうじゃないですか。直接手をかけられていなくても、精神的に圧力をかけられていたんじゃないですか?」
「答えたくありません」
「それは認めていると言うことですかね?」
すると香取が咳払いした。猿渡はちらっとそれを見、質問を変えた。
「まあいい。あなたが逃走時に持っていたスタンガン、あれが凶器として使用されたことは鑑識の結果間違いない。そして、あなたはあれを通販サイトで購入した……その記録も確認している。つまりあなたの持ち物が凶器として使用され、あなたはそれを逃走時に持っていた……これ、どう説明します?」
「お答え出来ません」
「いやいや、凶器の所有者がそれ持って逃げた、それ、犯人以外有り得ないでしょ! これね、三段論法よ」
返答に窮した松浦が香取に目をやると、〝トーナン〟と口を形作った。
「あ、盗難にあったかもしれません」
「何言ってるの、盗難届出てないよ」
「盗まれたことに気がつきませんでした。……妻にあれを見つかってからは棚にしまい込んでいましたから。空き巣にでも狙われたのかもしれません」
「空き巣なら他に貴重品がなくなって気がつくでしょう」
「現金は持たない主義で、家にもほとんどありません。高価なジュエリー類は別居中の妻が全部持って行きましたし……」
「そうか」
取調べが終わってから、香取がスマイルを向けた。
「松浦さん、バッチリでしたよ!」
「そうですか、うまく行ったかどうか自信ないんですけど」
「うまく行ってますよ、これでピッキングの痕跡くらいは調べてくれるでしょう」
「そうしたら、盗難が証明されますかね」
「一筋縄では行かないでしょうけど、無罪獲得に一歩近づきました。これからも頑張って下さいね」
松浦はドキリとした。これまで敵側だったために意識していなかったが、よく見ると好みのタイプだ。
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