助け

 香取弁護士が接見室に入って来た。不本意ながら馴染みの顔に松浦は安心する。

「まさかあなたから声がかかるとは思いませんでした……」

「ええ、まさかあなたに頼ることになるとは……でも僕は無実なんですよ!」

「それにしても、遺体発見後の逃亡はまずかったですね。凶器まで持ち去って……」

「僕もあの時は気が動転して冷静に考えられなかったんです」

「しかし逃亡という前歴が出来たことで、在宅捜査への切り替え交渉が難しくなりました。しかも凶器を持ち去ったとなると、捜査官の心象を覆すのが難しい……」

「何とかなりませんか?」

「その……スタンガンは確かに松浦さんの持ちものだったんですか?」

「はい、間違いありません」

「それでしたら、もしあなたが本当に犯人でないとすれば、他に犯人がいて、その人物があなたのスタンガンを盗んだことになります。そしてそれを凶器として使った……」

「どうしてわざわざそんなことをするんです?」

「あなたに罪を着せるためでしょうね。……いずれにせよ、このままでは間違いなく送検、そしてゆくゆくは有罪判決です」

「そんな……僕は無実なのに。香取先生、何とかしてもらえませんか?」

 香取はしばらく考えてから答えた。

「やはり係争中の相手の弁護はお引き受け出来ません。でも……由香子さんの件について条件通り離婚に応じていただくなら、そこで事件は終わり、新たな案件ということでお引き受け出来ますが……」

 今度は松浦が考え込んだ。背に腹は代えられない。

「わかりました、条件をのみますので、僕の弁護をお願いします」

「了解しました。書類を警察の方に渡しておきますので、受け取ったらサインしておいてください」

「よろしくお願いします」

 松浦は頭を下げたが、複雑な思いだった。何しろ今の今まで敵だった相手に運命を託さなければならないのだから。

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