一時の休日 そして幻想へ

@sik21

第1話

 太陽が燦々と照り付ける昼頃。僕は仕事の休暇でとある林道を歩いていた。そこは一本道で、両側に緑豊かな木々が密生して生えていた。


「ふぅ。ここはとても落ち着くな。誰も人はいないし。周りの景色は緑豊かで綺麗だし。」僕はそう独り言を呟く。そして先へ行こうとしたその時、一匹の蝶が僕の目の前を飛んでいた。


 その蝶は羽の部分が煌びやかな紺色で、今まで見たこともない種類だった。「うわぁ。とても綺麗だ。」僕はその蝶を見た途端、一瞬で目を奪われてしまった。それは誘惑されたかのように。


 だが蝶は僕のその様子にそっぽするかのように、木々の中へ飛んで行った。「あっ、待て。」僕は蝶を追っかけるために道を外れて後を追いかけた。


その姿はまるで振られた恋人を追っている彼氏のように。そのせいで本来進むべき道から外れ、草木だけが生い茂る道なき道を進んでいってしまった。


 そして僕はそのままその蝶を追いかけ続けた。それは途中までは見逃さなかった。が、何時かしら蝶の姿はなかった。幻想かのように。


その途端、僕はまるで夢から覚めたかのように冷静になった。そして辺りを見渡すとさっきまで歩いていた林道の姿はない。ただ一面、空まで届きそうな木々が囲まれているだけの場所だった。


「もしかして僕、迷子になった…。」その時僕の体の中から湧くかの如く、冷や汗が出てきた。


もしかするともうここから戻れない。僕の心の中はそのことでいっぱいだった。そしてその場で落胆してしまった。それから数分、時が止まったかのように膝をついていた。


だがその時、ふと僕は顔を上げ空を見上げる。そこにはさっきと変わらぬように、太陽の光が黄金色に輝いていた。そしてその光は、まるで縫うように絡み合う木々の合間を透き通りながら、地面を照らしていた。


「そういえば余り太陽とか空とかをじっくり見たことが無かったなぁ。こんなに綺麗なのに…。」僕はぽつんとそう喋る。それは何か悔いを残した、暗いを醸しながら。けれどなぜそれが悔いのある事なのかは、一切分からなかった。


「…。でもこんな所で膝をついているわけにはいかないし、そろそろ行くか。」僕はそう決心する。そして立ち上がり、来た道を戻ろうとしたその時。僕から見て左側から、何か白く輝く灯が見えた。それはちょうど、後ろを振り向く瞬間の時だった。


「なんだ。あれは…。」僕は余りに奇妙だったので、その灯を注意深く見ていた。それは今にも消えそうで、儚かった。


「とりあえず行ってみるか、すごく気になるし。それにあそこかもしれない。元の道が。」僕は即断即決にそう判断すると、輝く灯に向かって歩いて行った。


それから歩いて行くと、徐々に輝きが増していく。それは近づくにつれて、比例するかのように。


けれど僕は、そのおかげでちゃんと進んでいることが確認できた。だから足が止まらず進み続けられた。


そしてついに僕は灯が輝いていた所の間近まで着いた。その時、灯が急激に広がって周りを全て包んでいく。木々や葉や地面に落ちている石っころも。それはこの世全てを消し去るかの勢いだ。


「なんだ!」僕は光が膨張した瞬間、反射的に両腕で塞ぐ。だがそんなことは無意味な行為だった。


「うぁぁぁ。」僕は絶叫した。それは鼓膜が張り裂けるくらい大声で。そしてそのまま僕は眩い光の中へ消えていった…。


それから何時間たったのだろう。僕は瞼の内側をただ見つめている。そこは真っ暗闇で何も見えなかった。


「…。んぅ。」僕はようやく気が付き、重い瞼を開けた。そして最初に気が付いたことは立っていることだ。おそらく立ったまま気を失っていたのだろう。


「うぅ。確か僕は光に包まれて…。そう言えばここは…。」僕は辺りを見渡した。そこは大きな木に囲まれ、それが大きな円形を形作っている。そしてその中には草木も何も生えていなく、ただ石っころが転がるだけだった。


だがしかし、そんなことよりも一段と目に余る物が存在した。それは約60メートルくらいある大きな古びた塔。それが何もない広場にぽつんと立っていた。


「あれは…。なんだ。」僕はその光景を見た時唖然とした。だって何故こんな所に塔が立っているのか、草木一本生えていない荒廃したこの広場に?僕は考えをめぐらせた。しかしいくら考えても分からなかった。


「でも、とにかく行ってみよう。こんな所で考えるよりかはましだ。」僕は吹っ切れた。そして塔へ慎重に歩いて行った。


それから僕は一歩一歩、重い足を上げて進んでいく。それに比例するにつれ、塔の迫力は徐々に増していった。


僕はその途中、周りをまた見渡した。そして空虚だなと、内心思った。その時、何か僕の心の中にもこの光景と同じような物があるような気がした。「何かがもやもやする、何だろう…。まぁ、でも、気のせいか。」


僕はそのことについて、考えることをやめた。それから意識を切り替え、歩くことに集中した。


そしてようやく、僕は塔の入り口に付近に到着する。その時初めて見たものは、ほとんど傷や欠けた部分のない大きな出入り口だった。その大きさはまるで巨人が大きな口を開けて獲物を待っているかのように…。


「とても大きな入り口だな、この塔に相応しいくらいに。よし、入るか。」僕は妙な感心をした後、塔の中へ吸い込まれるように入っていった。


塔の中はとてもシンプルで、奥にある螺旋階段以外何もない。それはまるで、おもちゃ一つしか入っていない大きなおもちゃ箱のようだった。「何もないなぁ。外と同じで中も空虚だ。」僕はそう独り言を呟きながら奥へと進んでいった。


そしてようやく僕は螺旋階段がある場所に着く。その階段は石の材質でできており、それはハンマーで叩いても壊れないほどだろう。「このくらい頑丈なら、別に石橋を叩かなくてもよさそうだ。いや、階段か。まぁ、いいや。とりあえず昇って行こうか。」


僕は頑丈な段差の一段目を踏む。その時ふと気になった。どれくらいの高さがあるのだろう。僕は上の方を向いた。そこには無限回路のように続く螺旋階段がそこにあった。


「えっ…。ここを昇っていくのかよ。」僕は目を丸くし、絶句した。けれどそれと同時にこんな大きな塔だったらこんなのがあっても仕方が無いなと思った。


「まぁ、でも仕方が無い。昇っていくか…。」僕は諦めに似た決心を決めた。そして階段の段差を一段一段、足を踏みしめて昇って行った…。


それから僕は、荒い吐息を吐きながら昇っていく。「はぁ、はぁ。そう言えば一体どれだけ昇ったんだ。」僕は山を見上げるように上方を向く。そこには最初の頃に見た光景と何も変わっていなかった。


「僕は本当に昇って行っているのか。」僕は頭の中に疑問を覚えた。「でも進んでいくか。また戻るのもしんどいし。それに天辺は見えていたから、とりあえず着くだろう。」そう思いながら、僕は螺旋階段の段差を踏んで頂上を目指していった。


そうして僕は無我夢中になりながら、階段を順々に昇って行く。それにつれて薄暗い天井が徐々に目視できるようになってきた。そして僕はようやく塔の最上階らしき場所にたどり着いた。


「はぁ、ようやく着いた。」僕は荒い吐息を吐きながら、その場で座り込んだ。「ふぅ、良かった。最上階はあったんだな。」僕はそっと胸を撫でおろした。「そういえば最上階には何があるんだ?」そう思った瞬間、目をキョロキョロと動かした。


そこは円を描くような大きな部屋、いや広場のような場所だ。それは塔の中をくり抜いたように。だがその広さの割にはとても質素だ。部屋の床を覆うくらいの赤い絨毯、そして天井にある煌びやかなシャンデリアくらいしかなかった。


僕はそこを一目見渡した。その時、部屋の中心辺りに何か人影のような物を見つける。「ん?誰かいるぞ。」僕はじっと目を凝らした。その人影は小柄で、髪の毛がだらんと垂れている。


「どうやら女性、いや少女のようだ。…。とりあえず行ってみるか。」僕は重い腰をゆっくりと上げ、少女のいる場所まで歩いて行った。


そして僕は少女の間近まで来た。それは腕を伸ばすだけで頭が降れるくらいの距離だ。僕はそのまま少女の姿を見下ろす。


その少女は、凛とした茶髪で髪が地面に着くくらい長く、そしてすらっとした銀のパーティードレスを着ていた。


僕はその姿に魅了された。そして少女の肩を優しく叩く。「あの…。すみません。」ぶっきらぼうに話しかける。するとその少女はそれに反応するかの如く、こちらへ顔を向けた。


僕はその時、少女に心を奪われた。それはすべてを映しとおすつぶらな瞳。透き通るくらいの艶があるとても綺麗な肌。ちょこんとした可愛らしい鼻。それらの要素が僕にとって突き刺さった。


すると突然、少女は笑顔になり急に話しかけてきた。「はぁ~。良かった。来てくれたんですね。」「うぁ!」僕はその時、余りに急だったので少し腰を抜かした。


「あら、どうしたんですか。そんな驚いて。」少女は僕のその様子に首を傾げる。「いや、そりゃ、あんな急に話しかけられたら。」僕はそう言いながら、服の埃を払う様相を見せた。


「ふーん。そうなんですの。」少女は興味なさそうな反応をした。「そうなんですのって…。で、君の名前はなんて言うんだい?」僕は素っ気なく質問した。


「あっ、そうですわね。でわ。」そう言うと、その少女はその場ですらっと立ち上がった。そして礼儀正しく、少女は軽く自己紹介を行った。


「私の名前はソフィ・クルガ。この塔で長年暮らしていますわ。」そう彼女は元気溌剌に答える。「へぇー。そうなんだ。」僕はそれを興味深く耳を傾けていた。ソフィは僕の様子を見ながら、そのまま紹介を続けた。


「そして次は私のペット紹介しますわ。来てらっしゃい。」ソフィは後ろの方を振り向く。そこにはぽっかりと口を開けるように、開放部が位置していた。


そしてなんと、そこからさっきの紺色の蝶が優雅に開放部から舞い込んできた。僕は仰天した。「あっ!さっきの蝶。ソフィのペットだったのか。じゃ、もしかして…、僕をここに連れてきたのは。」


「はい、そうですわ。この私です。」ソフィは蝶とじゃれ合いながら、自信満々に答える。それからはここは何処なのか、何故僕を連れてきたのかを説明してくれた。


聞くところによると、ここは元居た世界ではなく別の世界、いわば異世界。そして僕が彷徨った森は元の世界とこの世界を繋ぐ連絡橋見たいな所。


だがそこは一度迷ってしまうと永遠にさまよってしまうらしい。そして僕は迷ってしまった。だが僕はたまたま運がよく、この世界に着けた。


そして続けて何故僕なのか?それはどうやら僕のことが気になったらしかった。その理由は深く聞けなかったが、何か同じ所を感じたらしい。


彼女のペットの蝶を使い、僕をここまで連れてきたと言う。しかしその蝶は僕にかまわずに、そのまま置いてけぼりにしてしまった。それが僕を森に迷わす原因になってしまった。


「とりあえず、無事でよかったですわ。」ソフィはほっとし、胸を撫でおろした。対する僕は、その話を聞いて冷や汗をかいた。


「僕、あともう少しであそこから出られなくなる所だったのか…。」僕はそう運の良さに感謝した。「そうですわね。でわ…。」ソフィは急に僕の手を掴んだ。


「うぉ。なんだ。」僕は余りに急で、動揺を隠せなかった。「遊びに行くんです。」「遊びに?」「そうです。そのために連れてきたんですか。」そう言いながら、彼女は僕の手を掴み、そのまま向かい走り出した。


「そもそも何処に行くんですか?」「遊び場です。」「遊び場?そんなのどこに…。」「こうするんです。それっ、くるくるドーーン。」


そうソフィは何か呪文の唱えるようにそう叫んだ。その時、目の前に何か白い空間が急に現れた。それは言葉では表現しきれない何かだった。


「なんだ…。あれは。」「遊び場に繋がる道です。それじゃ行きますよ。」ソフィはそう無邪気に叫びながら、その空間に飛び込んだ。僕もそれに釣られ、一緒に飛び込んだ。


「うぁ!」その時、とても眩しい光が勢いよく射す。それは太陽よりも眩しかった。そしてその中をソフィと僕は進んでいった…。

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