第16話 歴史が変わった

 トワイライトは歓喜していた。


「ぬわはははは! さあさあ、儂らの反撃開始じゃァ! 攻撃さえ通じるのなら、貴様ら等に後れを取る儂ではないわァ!」


 これまであらゆる攻撃を跳ね返してきたキカイの防御力。

 スピードやパワーなどは負けていない自信があったが、その防御力という一点を突き破れなかったがために、キカイに勝つことができなかった。

 そしてその結果、全人類が悲劇に見舞われた。

 自分も数多くの戦友や、幼いころから馴染みの者、互いに血と魂をかけてぶつかりあった敵たちすら、キカイによって奪われてきた。

 それはついこの間も同じこと。


――姫様……お二人が幼いころより今日までお仕えできて、実に本懐でありました。どうかご武運を。ワシらは先に逝きます。姫様たちは必ずやあの希望を……


 幼いころからの世話役。

 共に戦争に出ている以上、死という名の別れは付き物だと覚悟もしていた。

 しかし、それでも割り切れない。



「貴様らァ……貴様らの仲間である同じキカイが死んでいるというのに、動揺もしてなければ、泣いたりキレたりするわけでもか……魂あるのか?」


「警戒レベルアップ」


「こんな奴らに……こんなクソつまらぬ奴らが……今まで好き放題してくれたもんじゃのう!!」



 ましてや、相手は人を殺しても、仲間が殺されても大した反応を見せない、本当に人形のような存在。

 そんな相手にただ殺されるだけ。

 どうして、イバラは我慢ならなかった。


「これは爺の分じゃァ! これは、これは、これは、これはぁぁぁあ! 全員の怒りじゃァ!」


 だからこそ、荒ぶった。普段は冷静に敵を足止めすることや、ふっとばして距離を取ったりするようにして、不用意に必要以上な特攻はしなかった。

 しかし、今のトワイライトは違う。


「次じゃァ、もっとキカイどもを儂に誘導するのじゃァ!!」


 まるで自身の全てを出し切るかのように、タガが外れて暴れまわった。

 次々とキカイを粉砕し、蹂躙していく姿。

 それは暴れる鬼人……そして……


「すげぇ、トワイライト姫……」

「ああ、ああ! この日を待ってたんだ!」

「キカイに反撃し、そして姫が……ここまで……」

「よっしゃ、俺たちも体を張って言われたことを果たすんだ! 次代の魔王様のために!」

「おおおおっっ!!」


 まさに、暴れる魔王。

 その姿に突き動かされた魔族たちがより一層躍動する。


「姫だけではない! 小生も参るッ!!」


 また、トワイライトと同様に己の力を開放して暴れる、オルガス。


「今日の小生は武人としてではなく……貴様らにとってはただの災厄となろうぞ! ふふ、ふふふふ、ふははははは! これだ! 斬る! 斬れる! 殺せる! この感覚だ……ふふふふふ、ふはははは、子宮がたまらなく疼く♡」


 アークスに与えられた大剣を振り回し、キカイたちを両断し、時には砕き、時には突き刺し、圧倒的な力を見せつける。


「トワイライト姫もオルガスさんもすげえな……よし、俺もだ! 俺もこの屑鉄野郎どもに見せつけてやる!」


 そして、二人の活躍と熱く猛る兵士たちの姿に当てられて、アークスも動く。


「アークス、待ってください! モグラキカイだけでなく、当初こちらに来ると報告を受けていた―――」

「分かってるよ、クローナ。あっちの『30体』は……」


 当初、『30人』のキカイがこちらに接近しているという報告があり、その防衛のために世界連合軍たちは動こうとしたが、地中から襲撃したモグラキカイたちによって陣形を崩され、中心で乱戦となった。

 だが、今はトワイライトとオルガスの活躍でモグラキカイたちを返り討ちにできている一方で、その間にも30人のキカイたちもこちらへ辿り着こうとしている。

 そのキカイたちに対して、アークスが動く。


「俺が行くッ! クローナの命令は絶対に果たす!」

「アークス……」


 迷いなく、そして強く真っすぐな目でアークスは走り出す。

 そして……


「急報! まもなくキカイが30人ほどこちらに……」

「そうだった、トワイライト姫! 大将軍! こちらに―――」


 兵たちもキカイたちの存在に気づいて、慌ててトワイライトたちに進言しようとするが、その前にアークスが駆け出した。



「全員まとめて風穴開けてやらぁぁ!!」


「ターゲット発見。捕獲」


「できるもんならやってみろよぉぉ!」



 アークスが唸って右手を振りかぶる。

 輝きに包まれたその右腕にトワイライトたちも気づき目を見開く。


「おお、救世主殿!」

「救世主様!」


 二人は期待していた。何を見せてくれるのかと。

 そして、同時に証明して欲しかった。


「遠慮いらぬ! おぬしの力、もう一度儂らに!」

「証明してくだされ、救世主様!」


 アークスに対して自分たちが抱いたものを証明して欲しかった。



「ええ、命じます! アークス、『もう一度見せなさい!』。あなたが私たちに見せてくれたものは……間違いなく本物だったのだと!」


「了解ッ!!」



 クローナも己の傷ついた体など一切気にすることなく、ただアークスの背中を見続け、そして信じた。



「貫けえええ、ドリルローズロードォォォォォォォォッッ!!!!」



 それは、世界で初めてキカイを倒したときに見せた渦巻く武器が更に変形し、長く伸びて枝分かれになり、同時に30人のキカイ全ての胴体を貫き、そして次の瞬間にはキカイたちが全て爆発して砕け散った。



「ふは……ふはは……なんという……見事な救世主……いや、男じゃァ! 儂もオナゴであることを思い出させるほど……子宮が疼くほどに!」


「こんな男がこの世に……ああ、ッ、ふふ……小生もチョロい女ということか……ここまで感極まるなど……姫様が惹かれて賭けたくなったわけか……」


 

 それは誰もがいまだかつて見たことのない光景。

 英雄であるトワイライトもオルガスすらも、ただの一人の女として蕩けた表情でアークスを見つめてしまうほど。


「お……おおお……」

「あれが……あれが……」

「は、ははは、や、やった……」

「やったぞおおおお!」


 そう、やったのだ。

 兵士たちの表情が歓喜に染まる。

 そして……


「任務続行不可能。撤退」

「任務続行不可能。撤退」

「任務続行不可能。撤退」


 残り僅かとなったモグラキカイたちが、口を揃えてそう呟き、次々と自分たちが掘った穴に潜って逃げていく。


「キカイたちが……」

「逃げていく……」

「あ、ああ……キカイたちが……」


 これもまた連合軍にとっては初めて見る光景だった。

 いつもは自分たちが逃げていたはずなのに、キカイが自分たちから逃げていく。

 あまりにも衝撃的なことで、誰もが追撃することができない。


「姫様……」

「うむ……わかっておるわい……」


 トワイライトは頷き、そして壊れていない馬車の上に飛び乗って、周囲を見下ろしながら槍を頭上に掲げる。



「おぬしらァ、追わなくてよい。ケリはついたぞ! ……この……いく……さ……」


「「「「ッッッ!!??」」」」


 

 トワイライトが皆に告げようとする言葉を、興奮で叫びだしたい衝動を抑えながらも、兵たちは慌てて口を閉じた。



「キカイとモグラキカイの同時襲撃による防衛戦……交戦した儂たち……儂たち世界連合軍の……じ、人類の……人類の初勝利じゃぁぁぁ!!!!」


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」」」」」



 それは、もはやいつ以来の勝鬨だったか、兵士たちにはそれほど久しぶりに感じた。

 キカイとの戦い、もはやそれは一切上がることが無かったものだった。

 しかし今日、歴史が変わった。

 この場に集った者たちの全てがそれを理解し、皆が抱き合って喜びを爆発させた。


「爺……散った同胞ども……おぬしらが命を懸けた希望は……間違ってはいなかったのじゃ……おぬしらが希望を死守した功績は……必ず遠い未来まで語り継いでやるわい! だから、見ているのじゃ!」


 トワイライトも空を見上げて、込み上げてくるものを必死に堪えながらも、散った仲間たちに誓った。



「そう、人類の初勝利……そしてこれが……キカイ共への反撃開始の狼煙じゃァッッ!!!」


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