第15話 命令
「超絶金属! パイルバンカーッ!!」
噛んで砕いて食べて変形した。
言葉にすればそれだけの事態ではあるものの、この場に居る魔族における最上位に位置するトワイライトたちですら、言葉を失う光景だった。
「突貫!!」
しかし、それこそトワイライトたちが求めた希望。
アークスの変形した右腕を叩き込まれたモグラキカイは、そのまま胴体を風穴開けて貫かれて倒れた。
「アークス!」
「救世主殿……やりおったのう!」
「これが……救世主様の力!」
次の瞬間、クローナたちは歓喜した。
これを待っていたのだと。
「足りない……もっと、お腹空いた……もっと!」
「おにいちゃ……ッ!?」
一方で、動かなくなって倒れたキカイを前に、アークスは屈んでキカイの身体を右手で刻んでいく。
「むしゃ。ばりぼり、ばりぼり、あむ、んぐっ」
「あっ、あ……」
それは食事。
刻んだキカイの身体を、まるで野生の獣のようにバリバリとアークスは食べ始めた。
「ア、アークス、なにを……」
「あやつ、キカイを食いおって……ふははは、なんということを!」
「一体どんな顎を……は、はは……すごい……」
それを間近で見ていたマセナたちは顔を青ざめるも、トワイライトたちはその異様さよりも歓喜の方が上回っていた。
そして……
「ふぅ……さて……あいつら……」
ある程度食べて満足したアークスは立ち上がり、まだこの状況に気づいていない他の兵士や民たちを襲う悲惨な光景に怒りの表情を浮かべる。
「おい、救世主殿!」
「救世主殿!」
「アークス!」
そんなラゼンに慌てて駆け寄るトワイライト、オルガス、そして傷ついたクローナ。
三人に対してアークスは……
「みんながあの重機……というか『ロボット』を……キカイだっけ? を倒せないのは、単純に武器がダメなんだ」
「「「?」」」
「あいつらのボディは『超金属メチャカテー』でできてる。『この世界』の文明で生み出された鉄の武器じゃ歯が立たないし、マグマや深海でも活動できるあいつらに火とか衝撃とかの魔法とやらも効かない……」
三人は再び言葉を失ってポカンとした。
これまでの情けなかったアークスとは打って変わり、自分たちの知らない単語を交えて饒舌に語りだしたからだ。
さらに……
「でも、大丈夫。俺は……取り込んだ鉄や金属を変換して最高品質に進化させ……精製することができる! こんなふうにっ!」
「「「ッッ!?」」」
次の瞬間、アークスの変形していない逆の腕が発光。
その光はやがてドロッとした液体のようなものを放出。
一瞬魔法かと思ったトワイライトたちだが、そのドロッとした液体がやがて形を作り、トワイライトたちが現在持っている武器と同じ形のものができあがった。
「はい、トワイライト姫は槍で、オルガスさんは剣だろ?」
「な、に?」
「救世主様……?」
手渡された武器を呆然としたまま受け取るトワイライトとオルガス。
「デリート」
「デリート」
「デリート」
そして、キカイたちもいつまでも放置してはくれない。
三人に背後からキカイたちが迫る。
「ちぃ、牙突ッ!!」
「ダークオーバーキルッ!!」
トワイライトとオルガスが受け取った武器で振り向きざまにキカイに攻撃する。
これまでは、相手をふっとばしたりするだけしかできなかった攻撃。
二人はいつものように力づくで吹き飛ばそうとした。
だが、今回はいつもと違った。
「な……」
「え?」
トワイライトの突きでキカイモグラの胴体を貫き、オルガスの剣で両断した。
「な、お、お姉様! オルガスッ!?」
「な、んじゃと……? どういうことじゃ!」
「し、信じられない……あ、あれだけ小生らの武器を弾き、時には砕いていたあの強固なキカイの身体が……あ、アッサリと……」
同時に二人……いや、ラゼンが先ほど倒したのを含めて、三人のキカイが死んだ。
ラゼンだけが希望だったはずが、自分たちでも倒すことができた。
「姫様……」
「……大将軍……」
流石にその状況に、混乱していた兵士たちも、悲鳴を上げていた民たちも気づいた。
トワイライトとオルガスがキカイを倒したことを。
「ターゲット変更」
「警戒レベルアップ」
蹂躙していたキカイたちも、急に変わった。
これまで目の前の者をただ殺しているだけだったキカイたちが一斉にトワイライトとオルガスに向かっていった。
だが……
「うおおおおお!」
「はあああああ!」
攻撃が通じさえするのなら、キカイたちに二人を倒すことはできない。
アークスに渡された武器を再び振るった二人が、群がってきたモグラキカイたちを一蹴した。
「な、なんと!?」
「姫様が……大将軍が……」
「キカイを……キカイを倒した!」
絶望の状況にあった兵士たちの表情が変わっていく。
これまで世界の誰もができなかった「キカイ」を倒すということ。
アークスだけではない。
トワイライトにもオルガスにもできた。
「……いける……ふは、ふははははははははははは!」
「ええ! いける、いけますぞ!」
トワイライトとオルガスが武器を握りしめ、高鳴る心臓と熱くなる衝動を抑えきれず、手に持った武器を上に掲げて叫んだ。
「倒せる……倒せるぞ、キカイの者どもを、殲滅じゃァ!」
「いける……いける! 皆の者、キカイ共を小生に集めろ!」
これまで、その言葉は誰も聞いたことは無かった。
いや、キカイたちがこの世に現れた当初は誰もが言っていたかもしれない。
しかしキカイたちに勝てぬと悟り、やがて誰もその言葉を言わなくなった。
「儂らは勝てる!」
「今こそ、小生ら人類の反撃のときだ!」
長い間、誰も聞くことができなかったその言葉。
仮に言うとしても「いつか勝ってみせる」、「いつか反撃を」と頭につけていた。
しかし、もう違う。
いつかではなく、今!
「「「「「うおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」」」」」
守るでも、足止めのためでもない。
その場に集った世界連合軍の兵士たちは、勝つために戦う。
「アークス……あなたは本当に……何者なのですか?」
一瞬で辺り一帯が熱気に包まれる中、傷ついた腕を抑えながら、クローナがアークスに問う。
「分からない。でも、あいつを食べたら、なんか色々流れ込んできて……でも、もうあいつらの好きにはさせねーよ!」
その問いに、アークスもまだ明確に答えられない。
だが、それでもやるべきことは分かっていた。
あいつらを倒す、と。
そして、同時にもう一つのことが分かった。
「そして、クローナ。分からないけど……クローナは俺のマスターなんだ……」
「は、はい? ますたー? マスターって、どういうことです?」
「分からない。でも、これだけは分かる。俺は、クローナの『命令』なら何でも聞く。何でも果たしてみせる」
「命令……?」
どうして自分がそういう存在なのかは分からないが、逆らえない何かがアークスを縛っていた。
「命令してくれ、クローナ。命令が無くても動けるけど……俺は今こそクローナの……マスターの命令を欲している」
アークスはただその縛りに従うように、クローナに告げる。
「わ、分かりません、そんな……で、では、キ、キカイを倒してください……とか、みんなを守ってください……とか……」
「『お願い』じゃない。『命令』だ……わかんねーけど、命令じゃなくても俺は自分の意思で動けるけど、『命令』されたらそれが俺の力になるんだ!」
「え、ええ?」
まるで意味が分からなかった。こんな状況下で、アークスは何を言っているのか、クローナには理解できなかった。
しかし、こうして二度目の奇跡を起こし、人類の希望を改めて証明したアークスが、どういうわけかソレを欲している。
願いではなくて、命令。それだ更に力になる?
分からないが、もしそれが本当なのだとしたら……
「で、でしたら、アークス! キカイを……みんなを……」
そのとき、クローナがアークスに命じようとしたのは、『キカイを倒せ』、『みんなを守れ』という命令だった。
しかし、クローナは寸前でそれを思いとどまる。
「違います……私も――――」
そして、クローナが改めて命ずる。
「アークス! 私たちと一緒にキカイを倒し、そして人類を守るのです!」
「了解しました! ……ああ、一緒に行くぜ!」
その命令に、アークスは己の全身全霊を懸けて応える。
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