第2話突然の事態


 笑い声と同時に突然わたくしから溢れんばかりの光が輝き出した。


「な、なんだどうした!」

「きゃあっ!」


 わたくしの一番近くにいたアルノーとリサの二人は声を上げる。

 そして輝かんばかりの光に驚き、後ずさった。


 10秒、いや30秒ほどすぎると次第にその光は収束していった。


 これですべて解放されたのだ。




「……っ! きゃああああ! な、なによそれ!」




 いち早く反応したのはリサだった。

 そして続くようにアルノーは目を見開く。

 わたくしの頭を指差し、声を震わせていった。



「な、なんだ!それは!ま、まるで──────ツ、ツノではないか!?」




 アルノーの言葉に卒業パーティーに出席していた人間たちはざわめき、声を上げる。


 わたくしは、そういえば忘れていたわと考えたながら今までなかったその頭上のツノを触る。


 そう、これは──。



「ええ、間違いなくツノですよ。すべて解放されたのでどうやら元の姿に戻ったみたいです」


「本当にツノなのか。お、お前は一体何者なんだ!?」

「で、殿下、こ、怖いですっ。あの人からととてつもない闇の気配を感じます!」


 リサは怯えたように体を震わせ、顔を青褪めさせる。

 わたくしの力をより感じるのはリサが光属性保持者だからだろう。


 わたくしはこの魔法学園では落ちこぼれだった。

 勉学に関しては常にトップを取り続けてきたが、魔法実技に関してはからきしだったのだ。


 使えるのは少しの風属性魔法のみ。

 風属性の魔法使いはこの世界で一番多く、貴族の中ではごくありふれたものだ。

 平民でも使えるものはたまにいたりする。


 そんな風属性で、それもほんの少ししか使えないとあっては落ちこぼれの烙印を押されるのも当然だろう。


 だがそれは、今まで本来の属性──闇属性の魔法を厳重な契約の鎖で封印されていたからだろう。


 そしてその封印を解こうと、わたくしたちログネンコ家の人間は虎視眈々と狙い続けていたのだ。


 それも今日で全ておしまい。



「殿下、全てあなたの責任──いえ、あなたのおかげですよ」



 わたくしは呆れたように呟く。


 殿下が陛下の言葉をしっかりと把握していればこのような事態は起こらなかっただろう。

 いや、陛下も陛下でアレな人間であったからおそらく50年以内には封印が解かれていたに違いない。


「ど、どういうことだ!! せ、説明しろエスメラルダ!」


「しょうがありませんね。あなたの不勉強の尻拭いをするのはいつもわたくしでしたが、今回はその不勉強さに感謝をしてわたくしが直々に教えて差し上げますよ」



 今までとは異なる横柄な物言いにアルノーは一瞬眉を顰めたが、漂う闇の圧力に気圧され口をつぐむ。


 周囲の人間たちもわたくしの解放された闇属性の力に恐れをなしたのか、誰一人として動くことが出来ないようだった。


「わたくしがこれまで首までしっかりと隠れるドレスしか着てこなかったことを不思議には思いませんでしたか?」


 そう言いながらわたくしは周囲を確認した。目的のものを見つけるために。


 そしてその瞬間、わたくしの手には小さなナイフが握られていた。


「……な、なんだ! い、今何をした!」


「必要だった食事用のナイフを取ってきただけですけれど」


 その間わずか0.1秒にも満たない。

 誰一人としてわたくしの動きを捉えられたものはいなかったらしい。


 そんなことはどうでもいい。


 わたくしはまだ何かをずっと怯えている女と己と気圧されつつも口を開いている男を前にドレスの首元部分を切った。


 ナイフを床に捨て、切られた布地を引き裂く。

 そしてその白い首を晒した。


 もともと銀の髪を持ち容姿端麗であるエスメラルダの美しさに周囲の男たちはこくりと唾を飲み込む。

 それは目の前の元婚約者も同様だった。


「わたくし、ここにずっと封印の印がありましたの。ですから流行りの胸元まで空いたドレスを着ることが出来なくて……ほんと残念だったのです」


「そ、それとそのツノと何が関係あるんだ!」


「まだ分かりませんか?わたくしはあなたとの婚約という封印の呪いに縛られて続けていたのです。そして今夜、この場婚約破棄という呪いからの解放が行われた。ただそれだけのこと」


 アルノーその整った顔を歪めら唾を飛ばしながら怒鳴りつける。


「その封印とはなんだ! まどろっこしいことはいいから早く言えっ!」


 わたくしは小さくため息を吐き、簡潔に真実を口にした。






「魔王の封印ですわ」




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