第118話

 エミリーはどうすればうれしいんだろう。何を私はしてあげられるんだろう。本人に確かめた方がいいよね。

 私の押し付けなんて、もしかしたら迷惑になっちゃうかもしれない。

 陛下の挨拶が済むと、殿下の入場が告げられた。

 つ、ついにエミリーが出てくる。

 ドキドキしすぎて、このまま気を失ってしまいそうだ。だめだめ。気を失ったらエミリーの姿が見られないわ。

 天幕を近衛兵が開くと、空色の正装に身を包んだシェミリオール殿下が姿を現した。

 かっ。

 かっこいい。息をのむほど精悍で素敵な顔をしている。

 そう思ったのは私だけではないようで、周りからため息が漏れるのが聞こえてくる。

 今まで見たエミリーよりも男らし顔つきに見える……。あれは、本当にエミリー?

 エミリーの視線が会場に来ている人々に向けられた。

 私に気が付くだろうか?

 エミリーの視線が私に向く。

 見た!

 公爵令息であるロバートと一緒にいる私を見た。

「あれ……?」

 見たよね。

 気が付かなかったのかな?

 エミリーは、会場の他の場所を眺めるのと同じ温度で私を視界にとらえただけのような感じだった。

 なんで?

 少しも驚かないの?

 なんで?

 エミリーの好きな可愛いドレスだよ。少しくらい視線を止めてくんじゃないかと思ったのに。

 もしかして、お父様に、今日は娘も息子と一緒に来ますとかなにか聞いてる?

 エミリーが両陛下の隣の椅子に腰かけると、その後ろに宰相であるお父様が立った。そして、身をかがめて何やら耳元で話かけている。

 ほら、あの白いドレスが娘ですとか言ってたりして?

 エミリーは表情を変えることなく、小さくお父様に頷き返して、すぐに立ち上がり会場に集まった皆に戦勝の報告とお礼の言葉を述べた。ありきたりな言葉なんだけれど。

 会場の人間は息をのんでその言葉を聞き、終われば割れんばかりの拍手を贈った。

 私は……ほんの数メートル先に立つエミリーの姿を見上げながら、ずっと胸がどきどきしている。

 ああ、エミリーだ。

 本当に、皇太子殿下だったんだ。

 いつもエミリーは人前に出るときはこんな顔をしているんだね。

 エミリーじゃなく、エミリオでもなく、シェミリオールの仮面をかぶった殿下。

 カッコいいんだけれど、人を寄せ付けない冷たさも感じる顔だ。

 私は知ってる。初めて会った時、私を心配して助けようとしてくれたこと。

 私だけが知ってる。本当は可愛い物が大好きで、人懐っこくてよく笑うこと。

 好き。

 エミリー。

 いつものエミリーが好き。

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