第119話

 今のシェミリオールの仮面をかぶっているカッコいい精悍な姿のエミリーも素敵だけど。

 眉根を寄せながら必死に刺繍糸を針に通そうと苦戦しているエミリーとか、初めて刺繍でイニシャルを刺しきって嬉しそうに笑ったエミリーとか。大好き。

 何もかも、エミリーのすべてが好き。

 エミリーは皆の顔を平等に眺めるよう、誰かのところで視線を止めないように会場に視線を配っている。

 私を見て。

 ねぇ、エミリー。エミリーの好きなフワフワで可愛いドレスよ。

 ああ、早く二人きりになりたい。2人きりになれば、きっといつものエミリーの笑顔を見せてくれるんだよね。

「まぁ、なんて素敵なの!本当に天使みたい。可愛い。白いドレスがこんなに素敵で可愛らしいだなんて!しかも、ブーケドコサージュで何通りもの可愛いドレスを簡単に作り出すことができるなんて!リリーすごいわ!」

 頬を染めてドレスを見るエミリーを想像する。

 ああ。今日は二人で会えるだろうか。王宮では無理かな。いつもの噴水もないし。

 でも、……私が公爵令嬢だと分かったのであれば、むしろ理由をつけて堂々とどこかで会える?

 2人きりは流石に無理だろうけれど……。この人が多く集まっている会場とは違う別の部屋で会える?

 お父様に婚約したいということを伝えて、2人で会えるように協力してもらう?待って、お父様に話が行くなら、両陛下の耳にも入るだろうから、2人で会ってる場合じゃなくなる?

 もしかして、今日、この会場で……。

「今日はもう一つ喜ばしい報告がある。皇太子シェミリオールと、公爵令嬢リリーシャンヌの婚約が決まった」

 とか、陛下が高らかに宣言してしまったりして?

 ああ、どうしましょう、どうしましょう。

 そんな心の準備まではしてこなかったわ。

 エミリーが壇上で挨拶を終えて椅子に座る。

 ああ、しまったわ。何を言っていたのかさっぱり分からない。たぶん今日は集まってくれてなんとかとかありきたりの言葉なのでしょう。

 会場がどよめくような意外なことは何も言っていなかったんだと思う。

 そして、順に両陛下と殿下へ挨拶をする為に列ができ始める。

 暗黙の了解で、上位貴族からだ。公爵家は3つ。

 3つの上下はさほどないが、今日は公爵であるお父様ではなく公爵令息であるお兄様が家を代表して来ているので、うちが一番最後だ。公爵家の者ではあるけれど、公爵ではないから当たり前なのよね。

 ……公爵の中では一番最後とはいえ、全体の中では3番目。

 一組目が両陛下に挨拶し、すぐに殿下の前にと映る。今日は公爵様は奥様ではなく娘を伴っている。

 あれ?もしかして、皇太子妃候補?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る