第117話

 陛下の言葉に続いて、今回はシェミリオール殿下からも挨拶があるかもしれない。その後に、上位貴族から順に挨拶をするという流れだろう。伯爵家までの上位貴族の挨拶が終わった時点で、陛下たちは退席することもあるし、そのまま子爵家や男爵家の挨拶も受けることがある。しかし、伯爵家までの挨拶が終わりが一区切りとなり、音楽が始まり、食事の置かれた場所も開放されることになる。

 両陛下がまずはそろって入場。仲睦まじい様子は相変わらずらしい。私はと言えば、髪の色、目の色、目元、口、鼻の形、額……。

 エミリーと、陛下の似ているところ、妃殿下に似ているところを見つけて、エミリーは本当に皇太子なんだ……としみじみと思っていた。

 まずは陛下が挨拶をした。

「今日は集まってくれて感謝する。我が息子であるシェミリオールが率いる軍が見事に敵を蹴散らし我が国に勝利をもたらしてくれた」

 その言葉にわーっと、場が湧いた。

 すでに勝利を聞き及んでいた者たちも、改めて陛下の口から勝利を宣言されたことで現実感をもったのかな。

 いや、そもそも戦争があったということ自体が、この会場に集まったほとんどの貴族には現実味がなかったと思う……。目の前で兵士たちが戦っているところを見たわけでもないし、敵が攻め込んできて命からがら逃げたわけでもない。

 私やローレル様たちのように少し安全な場所に避難するくらいだろう。

 でも……。

 ぎゅっと拳を握りしめる。エミリーは戦地に向かったんだ。最前線にいて、そして行方不明になったと。

 何があったかは分からないけれど、大変な目にあったに違いない。戦争を経験すると人が変わったようになる人がいるという話も聞いたことがある。

 戦争に出て家に戻らない男の人がいると言う話をローレル様に聞いた時に言っていた。これ幸いにと家族を捨てる者ばかりではなく、精神的におかしくなってしまう人がいるのだと。人を殺める、自分も死ぬかもしれないという極限の恐怖、色々な体験で性格が変わってしまうこともあると。

 ……お父様が、殿下は無事だか少し問題がと言っていたのはそういうことなのだろうか?

 もしかして夜よく眠れないとか……だとしたら、大丈夫だとぎゅっと抱きしめてあげたい。

 膝の上にエミリーの頭を載せて背中をさすって……。

 ああ、どうしましょう。エミリーの為にじゃないわ。単に私がしてあげたいと言うことは押し付けなのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る