第97話

「お兄様は、いつも私の身を心配してくださっています。気分が悪くなるようなら無理して舞踏会へ行くことはないと言うくらいなんです。お父様にも、自分が話をつけてやろうと……」

 ローレル様が、まぁと目を見開いた。

「ごめんなさい。私、誤解していたようだわ。ロバート様は、妹をないがしろにする酷い方だとばかり……。むしろ心配で心配で仕方がないけれど、リリー様が公爵令嬢だとバレたくないという気持ちを汲んで遠くから見守っていたということなのね」

 うんうんと、再び大きく頷く。

「そうなんです。あの、お父様もお兄様もとても私を大切にしてくださっています。その……なかなか結婚が決まらない私に、ずっと家にいればいいよと言ってくださったり。それから、舞踏会へ行くと決めてからは、身分を気にせず好きな人を見つけてきなさいと……そのために、公爵令嬢だということは伏せて参加していたのです」

 ローレル様が私の言葉を聞いて、ちょっと視線を落とした。

「その……リリー様のような立場で婚約者がいらっしゃらないのは、なにか事情でも?」

 ぱっと顔を上げたローレル様が言いにくそうに口を開いた。

「あ、その……」

 事情は、男性アレルギーだからだ。

 いや、でも、アレルギーが出ない男性を探すことに積極的ではなかったのは……。このままでもいいのかと思っていたのかな。

 結婚に憧れが無かったし。やっぱりお父様やお兄様のやさしさに甘えていたのかな。

 お母様が早くに亡くなって……女性としての常識にも欠けていたというのもあるかも……。

 口ごもって答えられなくなってしまった私にローレル様が言葉を続けた。

「……公爵様が強く、皇太子殿下との婚約を望んでいたのでしょうか?」

「い、いえ、その、幼いときに殿下と婚約の打診は確かにあったのですが、むしろお父様は立場が悪くなるかもしれないのに、私のために断ってくださいました」

 お父様が私に何かを強要したことなんて……あ、あったわ。

 修道院に行くといったら、結婚しろ!って。……今思えば、親心だし。強要というほどでもないわよね。

 本当に強要するならば、家に婚約者候補を連れてきて顔合わせして……いえ、もうすでに男性としての能力を失った者をあてがう可能性だってある。方法はいくらだってあるのに、立場は問わないから、誰かいい人を見つけるようにって送り出してくれたわけだし。

「あら?……ということは、その……皇太子殿下のことが、あー……昔から何か合わないと思っていたの?もしかして舞踏会に出始めたのも、打診を断るために婚約者を別に探すためだったのでは?」

 え?

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