第98話
いや、別に殿下から婚約の打診はそのごありませんでしたし。
なんせ、心が女という秘密を抱えていて、エミリー自身が婚約を避けて、皇太子の地位も弟に譲ろうとしていて……。
「皇太子妃になりたいとおっしゃっていましたが、どうやら、私の親に言われたとか、王妃の地位にあこがれてとか、そういう意味とは違うようですわね?すでに陛下から打診を受けるような立場で、改めて皇太子妃になりたいなんて言わずとも……。まさか、断り続けるのも難しく、覚悟を決めたのかしら?ねぇ、リリー様、断れる立場なのですからあまり無理をすることもありませんわよ?」
あれ?
なんだかローレル様が誤解している?
「いえ、無理はしてないんです。えっと、エミ……殿下に、婚約しようと言われてうれしくて……で、でも私なんかに務まるはずがないと思っていたんですけれど……。ローレル様に”私なんか”って言わないようにって言われて。成長しているところなんだって言われて……。それで……。それで、殿下のお気持ちをお受けしようと……」
ローレル様の目がキラキラと輝いた。
「そうなの!リリー様と殿下は相思相愛なのね?お互いに好きなのね?政略結婚というわけではないのね?素晴らしいわ!」
はぁーっとローレル様がため息をついた。
「ああ、よかったわね、リリー様。でも、舞踏会に出席し始めたのはどうしてなの?」
「いえ、あの、その……実は……」
言うべきか迷ったけれど。
「恥ずかしい話なのですが……私、皇太子殿下のお顔を知らなくて……。噂話もあまり聞いたことがなかったので……。お兄様とはそれなりに交流があるというのに……そ、それで、その、舞踏会で、お互いの素性を知らずに、えっと、お会いして……。ほ、ほら、あの噴水ですわ。あそこで休んでいた私を心配して声をかけてくださって」
男性アレルギーのため赤くなった手を冷やそうとして噴水に手を伸ばしている姿を見て、エミリーが噴水に落ちると思って助けてくれたのよね……。舞踏会では、誰にも合わないように人目を避けていたのに。
それなのに、私のことを助けようと姿を現してくれた。
私が殿下のことを知っていて、皇太子妃になりたいと狙っている女だったら、騒がれて迫られて嫌な思いをするかもしれなかったのに。
優しい方だ。
「まぁ、あの後に出会ったと言うのね!お互いの素性を知らないのに、人目で惹かれ合ったなんて……!」
あ、いや、ちょっと違うんだけどな。
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