第96話

 あ!そうか。

 さっきまで体調が悪いような……エミリーのことが心配で顔色もさえなかっただろうに、手紙を受け取ったとたんに王都に戻ろうなんて。

 手紙に何かあったのはバレバレ。

 エミリーが皇太子殿下が誘拐されていたことも、それが解決したことも伝えるわけにはいかない。

 暗号でお父様は教えてきた。そして今回の手紙は他の人が読んでも何のことか分からない内容にとどめてある。

 私は手紙を読んで誘拐事件が解決したことにほっとしたのと、王都に戻っていい状態になったと知ったから戻ろうとしているんだけど。

 あまりの態度の急変に、ローレル様は手紙に脅迫めいたことが書いてあるかと疑ったのか。

「ち、違います。ほ、ほら。兄からの手紙、帰ってこいとは一言もないですよっ」

 慌てて誤解を解こうと、お兄様からの手紙をローレル様に見せる。

 ローレル様は、手紙を手に取ると、読んでもいいのかと目で私に確認した。頷いて見せると、ローレル様が手紙を読んだ。

「……謝罪?」

 口を開けてぽかぁんとしている。

「舞踏会で今度はエスコートさせてくれ?……えーっと……」

 ローレル様がさらに眉根を寄せた。

「……今頃、気が付いたというの?ちょっと遅すぎやしませんか……」

 何が遅いんだろう。

 お兄様が戻ってくるのを強要するようなことをしていないと伝わったと思うんだけれど、なぜかさらにイライラしてしまったようなんですが。

「あ、あの、お兄様は、その、本当にローレル様に何もしていないんですか?」

 何もされてないならなぜ、損な表情を……。

「私は何もされていませんわ。そして、リリー様にも何もしていませんでしたわよね?彼は何もしていない」

 何もしていない?

「慣れない舞踏会へ参加する妹のエスコートも。妹が気分を悪くしているときも……何も、していない。本来参加しなくてもよい立場の婚約者に構ってばかりで……」

 うわ、うわ、お兄様がローレル様の中で株が駄々下がりになっている。

「ち、違うんです、その、私が構ってほしくなかったんですっ!」

「え?」

 だって、お兄様がべったり側についていたら、エミリーに会いに行けなくなっちゃうし。

「こ、公爵令嬢だと知られたくなかったので、公爵令息にエスコートされてしまえば、あれは誰だとすぐにバレてしまいますし……。だから、私がお願いして、その、エスコートも断ったというか……だ、だから、お兄様のせいでは……」

 ローレル様がちょっと表情を緩めた。

「あら、そうなの?」

 うんうんと、大きく頷いて見せる。

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