第78話

「パティシエほど素晴らしい物はできませんが、クッキーなど簡単な焼き菓子を作っているんです」

「アンナはね、作ったお菓子を孤児院に差し入れしているの!」

 ハンナ様がアンナ様のことを自慢げに話し始めた。

「まぁ、素敵ね」

 ぎゅっと胸の奥が捕まれる思いだ。

 皆すごい。ローレル様も素敵だけれど、アンナ様も立派だ。それに比べて私……。

 皆の話を聞きながら、馬車の中でずっと考えていた。

 私なんか……と考えている時間があるなら、私にも何かできることを考えよう。

 成長するんだ。

 私だって、ダメなままじゃない。

 できることがあるはずだ。

 男性と距離を保つことさえ出来ればアレルギーも大したことがないのだ。酷くアレルギーが出る人には近づかなければいい。

 いいや、近づかさせなければいい。

 腐っても公爵令嬢。私の気持ちを無視して近づける人なんて、国には多くはいないのだから。

 ……ん?

 あら……?もしかして、私、婚約者を探すという目的を取りあえず置いてしまえば、社交界に顔を出せるようになるのでは?

 ローレル様やハンナ様やアンナ様と一緒に行動していればいいんじゃないかしら?ダンスを踊る以外、男性と振れることなど無いでしょうし。

 公爵令嬢にいきなりなれなれしく接してくる男の人なんていない……んじゃ……。

 女性だけのお茶会を催すこともできるでしょうし。

 ……あら?

 あれ?

 私なんて、男性アレルギーがあるから、あれも、これも、それも、できない、無理、役立たずだと思っていたけれど。

 もしかしたら、そうじゃないのかもしれない。

 私に何ができるのか。

 私にしかできないことがあるかもしれない。

 私には、もっと、もっと、色んな事が出来る。


 その日の夜は、布団の中に入るとワクワクが止まらなかった。

 何をしよう。何ができるか。

 ファッションリーダーとして活躍するのもいいかもしれない。

 かかとが20センチある靴……。そうだ。女性たちと話をすれば、何か困っていることを知ることができるかもしれない。それを解決できたらいいのに。コルセットが苦しいのは何とかしてあげたい。ウエスト部分に大きな飾りがつくようなデザインのものはどうだろう。

 腰ではなく胸のすぐ下からスカートが広がるようなデザインは?うーん、想像があまりできない。

 デザインセンスがあるわけじゃないのよね。こういうのはできないのかと言うと、仕立屋の優秀なデザイナーさんがぱぱぱっといくつもデザインを考えてくれるの。

 だから、まぁ、私の手柄というにはおこがましいんだけれど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る