第43話

「あらいやだ。まだ、名前すらご存知ないの?ブーケ・ド・コサージュどいうのよ」

 名前すら知らないという言葉に、周りの女性たちがざわめいた。

「ローレル様こそご存知ないのかしら」

「エカテリーゼ様が考案者だと」

「そうよね、初めに身に着けて舞踏会に登場したのはエカテリーゼ様ですものね」

「誰かが勝手に名前を付けたのかしら?エカテリーゼ様の手柄を横取りするつもりで」

 ローレル様は周りのざわめきなど完全に無視してエカテリーゼ様にまた一歩近づく。

「ブーケ・ド・コサージュに似た布でドレスを仕立てたみたいですけれど、よく見れば布の艶が全く違いますわよね。私のドレスは、間違いなくブーケ・ド・コサージュの発案者のもとで開発した仕立屋で作っていただいた物なのですけれど……」

 その言葉に、周りの女性たちの目がローレル様の目が品定めをするように二人のコサージュに目をむける。

「その、王室御用達の仕立屋から考案者は公爵令嬢のリリーシャンヌ様だと伺っていますけれど?」

 エカテリーゼ様の顔が青ざめる。

「王妃様もごひいきにしている仕立屋ですから、当然王妃様もご存知だと思うのですけれど……なぜ、ブーケ・ド・コサージュの名前も知らない、作っている仕立屋も知らない貴方が考案したことになっているのでしょうね?」

 ローレル様の言葉に、エカテリーゼ様の顔色がさらに悪くなった。

「私、貴方が嘘をついたと思ったのだけれど、私がおかしいのかしら?」

 ローレル様が首をかしげて見せたが、その目は決して自分の言葉に自信を持っていた。

「エカテリーゼ様が嘘を……」

「確かにどこの仕立屋で作っていただけるか尋ねても教えてくださらなかったわ」

「王妃様はすでに本当の考案者をご存知だとか……流石に大変なことなのでは」

「やだ、私もエカテリーゼ様が考え出したのよと他の方に教えてしまったわ。どうしましょう処罰されたら……」

「こういうの作ってちょうだいって仕立屋に頼んでしまったけれど、王室ご用達の仕立屋のアイデアを無断で使用したとなれば……」

「何てことなの、エカテリーゼ様のせいで」

「あの子が仮病というのも嘘なのじゃないの?本当に苦しそうだったもの」

「そうよね、エカテリーゼ様はとんだ嘘つきだもの」

 周りの人たちの声はエカテリーゼ様にも届いているだろう。

 プルプルと小さくエカテリーゼ様が震えているのが見える。

「わ、私を……誰だと思っているの……。将来の公爵夫人よ……私が公爵夫人になったときに、貴方たちどうなってもよろしいの……」

 はっきりと聞こえたその言葉に、ぴたりと噂話が止まった。

「あら怖い」

 ローレル様の馬鹿にしたようか言葉に、エカテリーゼ様が睨んだ。

「そうよ、私の婚約者は公爵令息ロバート様よ。考案者のリリーシェンヌ様のお兄様に当たる人よ……そう、頼まれたのよ、社交界に顔を出せない妹に変わって流行を広げてほしいと……」

 周りの人がまだ疑わしそうな顔をしている。

「う、嘘じゃないわ。ロバート様からこれはいただいたものだもの。私は、親切で……リリーシェンヌ様の代わりに……」

 お兄様が頼んだのかしら?

 まぁどちらでもいいわ。私があまり社交界に顔を出さないのも事実だし。早くに流行してくれたほうが、男性用ブーケ・ド・コサージュの定着も早くなるし。素直に、ありがたいことだ。

 息ぐるしさも収まった。

「ありがとう、あの、外の空気を吸ってくるわね。ローレル様にもお礼を伝えて置いて」

 体調がかなり回復したところで、皆の目が二人に集まっている好きにこの場を離れることにした。

 また男性に囲まれて酷いアレルギーが出ても困る。

 目立たないように移動して窓から外にでたところで腕をつかまれて、人目のないところに引き込まれる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る