第44話
「お兄様っ」
「リリー……すぐに助けに行けなくて済まなかった」
お兄様が苦しそうな表情を見せる。
「あんなに酷い発作が出ているのは久しぶりに見たよ……成長したら軽くなるんじゃないかなんて甘い話だったんだな……」
年々男性との接触を避けて生活していたから、確かにあれほどのアレルギーが出ることはここ数年なかった。
「あんな苦しい思いをしてまでも婚約者を探す必要なんてないんだ。僕が父に話してやる。だから、もう舞踏会に参加しなくてもいいよ。大丈夫、必ず説得してみせるから」
え?
「いえ、あの、お兄様、私は別に……」
お兄様が下を向いた。
「すまない……エカテリーゼが……すまない」
お兄様がそのまま深く頭を下げた。
「リリー……お前のことを仮病だとか嘘つきだとか……」
「いえ、男性アレルギーのことをご存知ないのですから……」
そうか。あの場の近くにお兄様はいて聞いていたのか。
私が公爵令嬢だと内緒にしてほしいというのでギリギリまで様子を見ていてくださったのかな。ローレル様が現れなければお兄様が助けてくれたのだろう。
「すまない、リリー……。ブーケ・ド・コサージュのことも……。お前の功績を……」
「お兄様、頭を上げてください。私は全然気にしていませんし、むしろコサージュのことをいち早く広めてくださって感謝しているのです」
エミリーが持っていても不審がられないように。1日も早いそんな世の中が実現するように。
「すまない……リリー。エカテリーゼには、領地に一緒に行ってほしいと頼んだが王都から離れたくないと断られて……今日、もう一度頼むつもりだったが……エカテリーゼとは1カ月距離を置いて色々と考えようと思う……」
エカテリーゼ様のことを色々と考える?どういうことでしょう?
お2人は仲良くやれているとこの間言っていませんでした?
ああ、それよりも。
「お兄様、本当に大丈夫ですから、あの、……私、その……お父様にも言わなくていいですから。早くエカテリーゼ様のところに戻ってあげてください。ね?何なら、妹のことを思ってしたことだと、エカテリーゼ様を庇ってあげないと……」
お兄様の背中を押して、それからすぐに庭の方へと駆け出す。
お兄様は一瞬私を止めようと手を伸ばしたけれど、そのまま屋敷の方に視線を戻した。
心臓がバクバクしている。
どうしよう、どうしよう。
お兄様が私が倒れそうになったことをお父様に報告して、お父様がもう舞踏会には行かせるわけには行かないと言い出したら……。
どうしよう、どうしよう。
迷路を抜けて、噴水のもとへ。
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