第19話

「布だけで作られた花ではなく、リボンやレースもあしらわれて、より手がこんでいるんですわね。可愛らしさがあって貴方に似合っていますわよ」

 褒めてもらえた。

「ありがとうございます。自分で手を加えてみたんです」

 リボンの縁取りレースが楽しくなってしまって、スカート部分につけた花には縁取りレースつきのリボンをプラスしちゃいました。

「まあ、そうでしたの。ご自身でドレスのリメイクを。ふふ、才能がありますのね」

 え?ドレスをリメイクしたわけじゃなくて、私が手を加えたのは、リボンだけ……ローレル様がなにか誤解してしまったみたい。

 でもまって、新しいドレスをバンバン買えるだけの家だと思われるよりも、このまま誤解していただいた方がいいのかしら?

 ローレル様の後ろの二人は、先月と同じドレスのようだし……。

 といっても、新しいドレスを作るたびにオレンジ色にしたらクローゼットがオレンジのドレスだらけになってしまう。金銭的理由ばかりでなく作っていない可能性もあるのだけれど……。

 あれ?これって……この、空前のオレンジ色ブームって、このコサージュの売り込みに最高のチャンスなんじゃない?

「実は、仕立屋に教えていただいたんです」

 と、ドレスに縫い付けたコサージュでは見せにくいので、エミリーに上げる予定のものをポケットから取り出す。男性用だけれど構わないだろう。

「見てください、これ、ブーケ・ド・コサージュって言うんですけれど」

 ローレル様が手のひらの半分くらいのサイズの男性用コサージュを手に取る。

「裏にピンがついていますでしょう?それも、その仕立屋さんが開発した安全な物なのですが」

「ああ、ブローチみたいに服に止められるようになっているのね?」

 ローレル様がピンと聞いてすぐに用途を思いついたようだ。

「ええ、実はこの花の形をした飾り、取り外しが簡単にできるんです」

「まぁ!本当に?では、もしかして……」

 取り外しが簡単と聞いて、またもやローレル様はすぐに気が付いたようだ。

「もしかして、外すとイメージの違うドレスになると言うこと?そうなんですね?」

 ローレル様の言葉に頷くと、後ろの二人も興味深げに、顔をのぞかせる。

「ええ、実は、すでにこのブーケ・ド・コサージュの他にも、リボンを中心に花をあしらったものだとか、一つの花のものだとか、レースをふんだんに使っているものだとかいくつかありますの。次回は、それに付け替えて舞踏会に出ようとおもっているんですわ」

 後ろの一人がちょっと貴族令嬢としてははしたないくらいの大きな声を出した。

「どこの仕立屋ですの?」

 え?

「教えていただけませんか?」

 もう一人もローレル様の後ろから出て、私の前に迫って来た。

 どうしよう。仕立屋の名前を出してもいいのかな。

 宣伝になるから出すべきなんだろう。とてもよくしてくださってるから宣伝したい。でも、公爵令嬢リリーシャンヌということは知られたくない。

 うちに出入りしている仕立屋の顧客って、上流貴族……王家にも出入りするくらいのすごいところだけど、それでバレたりしないだろうか。

 顧客の幅、広かったんだっけ。

 ……って、待って。そもそも、1着のドレスでコサージュを付け替えることで着まわせるようになんて発想、上流貴族だけを相手にしていれば、鼻で笑っておしまいになるんじゃない?

 学園で告白イベントを流行らせたいとも言っていましたし、そもそもがデザイナーは男爵令嬢で、そのつながりや学園時代からのお友達にも話している可能性はありますよね?

 私が色々と考えを巡らせて黙っていると、ローレル様が扇で口元を隠して、二人にささやいた。

「アンナ、ハンナ、二人ともその前に言うことがあるでしょう?」

 二人の名前は、アンナ様とハンナ様とおっしゃるのね。

 似た名前だけれど、やはり姉妹なのかな。

 ローレル様にささやかれて、二人がびくっと体を揺らしてから、お互いの顔を見合わせた。

「あ、あの……」

 どちらがアンナ様で、どちらがハンナ様か分からないけれど、年上の見える前髪を上げた方のご令嬢がおずおずと口を開いた。

「この間のことなのですが」

 この間というのは、先月あった舞踏会のことだよね。それ以外で会ったことはないのだから。

「し、失礼なことを言ってしまって……」

 どうやら、ちょっとずつアンナ様とハンナ様が言葉を口語に口にする。すでに二人の間、いいえ、ローレル様も含めて言うべきことは打ち合わせしてあったのかもしれない。今日、私が来るか来ないかもわからないのに?

「「申し訳ありませんでした」」

 二人が声を合わせて頭を下げた。

 失礼なこと?

 ああ、面と向かってドレスがダサいみたいなことを確かに言われたわね。

「リリー様、この子たちを許してあげてくださる?舞踏会には慣れていなくて、学園にも通っていなかったので、知らないことが多いのよ。もちろん、だからとって、許されないことをしたと思っていますが……」

 ぽかーんと、ローレル様の言葉に驚いて思わず間抜けな顔をしてしまう。

「ありがとうございます。ローレル様、お気遣いを……」

 ローレル様は上位貴族だろう。一方私は、男爵令嬢だと思われているようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る