第17話

「ごめんなさい。せっかく持ってきていただいたのですが、また、新しくデザインしたものをドレスと一緒に届けてくれるかしら?」

 流石に同じデザインでは、エカテリーゼ様に何を言われるかわからない。

「ええ、もちろんです。本当はもっともっといろいろなデザインが浮かんでいるのですが、試作品を早くにお持ちしようと作りやすさを優先してお持ちいたしました。ドレスとお届けするものはより繊細なデザインに致します」

 ニコニコと嬉しそうにデザイナーが笑っている。

 そうよね。コサージュというものは始まったばかり。すでに色々とデザインが作られているドレスと違い、全く新しい物だ。

 次々にアイデアが浮かんで仕方がないというのも分かるわ。

 私だって、エイミーと何をしようと考えると次々に色々なことを考えちゃうのと同じね。

 あら、これ、熱中してるっていうんじゃ?私、エイミーに熱中してる。ふふふ。だって、親しくお話ができるお友達ははじめてなんだもの。


 それから2日後には、再び仕立屋から連絡があり新しいコサージュを色々と試作して持って来た。

 うん、デザイナーさんも熱中ね!

「早速、男性にプレゼントするものも試作してまいりました」

 と、女性がドレスを飾るための大きなコサージュと、セットとなる小さなコサージュを持って来た。

 両方とも布で作られている。

「あら?この間のものはドレスの布と同じ布だけで作ってありましたが、今回は違うのですね?」

 前回は、ドレスに使われるものと同じ布だけで、花やリボンやフリルといったものの組み合わせで作られていた。

 今回は、メインは同じ色の布だけれど、別の色の布やレース等も使われている。

 オレンジ色に濃い青のリボンが組み合わされたコサージュは、ローレル様の姿が思い浮かんだ。

「オレンジ色と青は合うのね……」

 キリリと引き締まった感じだ。

 白いレースと組み合わせてあるものは、エレガントで上品な感じ。

「ピンクの薄い布との組み合わせはとてもかわいい」

 きゃあ、かわいいわ。私はこれが好き。やっぱりピンクは一番キュートよ!と、エイミーならいいそうだ。

 それに、濃いオレンジと薄いオレンジと、オレンジの濃度だけでデザインされている花束はまさに、花束のようだ。

「女性が、対になるものを贈ったときに、はっきりとペアだと分かるように色を入れてみました。オレンジ1色ですと、誰と誰がペアなのか分かりにくいと思いまして……」

 確かに。オレンジのドレスだらけの今の状態で、ドレスと同じオレンジの布を使ったブーケ・ド・コサージュを贈られても……男性側もオレンジだらけで、結局「それ、私が贈ったやつ?別の人から贈られたやつ?」状態よね。

 エイミー、中身はとても可愛らしい女性だけれど、姿はイケメンだった。

 きっと、たくさん告白されて、いっぱいコサージュもらえるわよね?オレンジばかりじゃつまらないわよね。

「そうね。それがいいわ。それに、これなら本当にたくさん種類が作れるわね。オレンジの花に青いリボン……これは、逆に青いドレスにも合いそうね」

 ローレル様の姿が浮かんで離れない。

 プレゼントしたら迷惑かな?

 ううん、ちゃんとこの間助言をいただいたお礼ですって言えば、ローレル様なら受け取ってくれるんじゃないかな?

 ローレル様に婚約者や思い人がいるのかは分からないけれど、男性用のもセットで贈りましょう。

 それからエイミーにはたくさん……贈ってあげたいのはやまやまだけれど、まだこの風習が広がっていないのにいきなりたくさん持っているのが見つかったら怪しまれるわよね。取り上げられるとショックを受けるでしょうから、一つだけ。

 風習が広まれば「女性からたくさん贈られたんだ、モテるな」で終わるんじゃないかな。

 ん?でも、贈られたコサージュをコレクションするのって「自分のモテ遍歴」を自慢するようでちょっと嫌な感じ?

 まさか、モテ自慢目的じゃなくて「かわいいわ!コサージュのお花畑ができたのよ!ああ、もうずっと見ていられるわ」目的だとは誰も思わないだろうし……。ふふふ。

 仕立屋は、コサージュを全て置いて帰っていった。

 青、レース、オレンジ濃淡、ピンク、黄色。

「んー、一つだけか。エイミーが一番喜ぶものはどれだろう……」

 やっぱりピンクと組み合わせた物かな。

 でもレースも捨てがたい……。

 右手にピンク、左手にレース。

 右手を上げて、左手を上げてと繰り返す。

「ああ、決められないっ!」

 そうだわ!

 いいことを考えた!

 ピンクのコサージュに、レースで縁取り編みしたリボンをつければ、どっちん要素も含んでよりかわいくなるんじゃないかしら?

 レースの縁取り編み、結構得意よ。かわいいから好きだし。

 早速、作業をするために裁縫道具を取り出す。リボンの両脇に白い糸で縁取りをするための縫い目を作る。

 そこにかぎ針をさしてレース糸を通しながら編んでいく。。

 ふと、思いついて、リボンの結び目になる見えないところにイニシャルを刺繍することにした。

 エミリーのEを。

 ……。いや、この場合は、エミリオのEかな?男性用グッズだし。

 ……とはいえ、そもそも、エミリーはエミリオなんだろうか?本当の名前?

 私が公爵令嬢として名乗らなかったように。あの場にいれば、当然貴族で、家名もあるはず。

 だけれど、私たちは、家名も名乗らず、私は愛称のリリーだけを口にした。

 エミリオも、本当の名前は違うかもしれない。

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