第12話
あら、オレンジ色は皇太子殿下の気を引くため?
やっぱりだったんだ。単に流行しているだけの可能性もあったけれど。あまり女性の流行に敏感ではないお父様でも知っているくらいの常識なんですね。オレンジ色イコール殿下狙いみたいなのが。
「お父様、落ち着いてください。私は誰だかお忘れですか?」
お父様が私の顔を見た。
「忘れるわけないだろう。私の天使。世界の宝、リリーだ」
……えーっと、望んでいた答えと違う言葉が返ってきました。そうじゃない、そうじゃないんですって。
でも、お父様に愛されているんだと思うと、とても嬉しくなる。ぎゅっと抱きしめてもらうことはできないけれど、その分こうして言葉で伝えてくれる。
……そんなお父様の望みが、私が嫁ぐことならば。
やっぱり、ちょっと頑張ってみよう。近づいてもくしゃみが出ない、痒くもならない人を探そう。見つからなければその時にまた別の方法を考えればいいんだわ。寝込まない程度にがんばろう。
「お父様、お忘れですわね。私は公爵であるお父様の娘です。つまり、公爵令嬢です」
「ははは、忘れるわけないだろう。私の娘だ。大切な娘。私の天使。世界の宝」
お父様、思考停止中かしら?
「お父様、落ち着いてください。私がオレンジ色のドレスをと考えたのは、何も皇太子殿下の気を引きたいからではありません。公爵令嬢の私であれば、舞踏会ではなくとも、直接皇太子殿下とお会いしてアプローチすることもできますでしょう?」
「あ、確かに、そうだな。そんな回りくどいことをせずとも、婚約までは簡単にできる」
お父様がキッパリと言った。
いや、待って、簡単ではないですよね?仮にも王家に男性アレルギーの娘と結婚しろなんて。
子供は無理だから、白い結婚でよろしくなんて、無理ですよね。
ふと気になったから尋ねてみた。
「その、お父様、陛下から打診とかは一度もなかったのですか?」
私のために、自分の立場を悪くして断り続けているのではないかと心配になったのだ。
「いや、それが……子供のころは何度かあったんだよ。本当に小さいころなは。まだ早いでしょう本人の意思も確認したいとその時は断っていた」
ふんふん、私のアレルギーは生まれた時からのものなので、その小さい頃が3歳だろうが5歳だろうが、断るしかなかったんですよね。
大人になるにつれ治る可能性もあったから、のばしていたというのもあるかもしれませんが。
「それが、10年ほど前からパタッと打診が無くなった。流石にどうしたものかと気になって尋ねたことがあるんだが……」
ちょ、お父様、なんでせっかくこちらにとっていい状況なのに尋ねたんですか!寝た子を起こしかねませんよ?押してダメなら引いてみな作戦だった場合、まんまとつられているじゃないですか!
「うちのかわいい娘に何か問題でもありましたか?と」
ある。
「美少女で、勉強熱心で賢い。我儘でも浪費家でもありません、こんなに素晴らしい私の天使の何が不満なのかと」
あああああ。親ばか、親ばかが発動してます、お父様!
「もし、母親が亡くなって、女性としての教育が行き届いていないだろうと言われるようなことがあれば、仕事をやめて領地でリリーと一緒にのんびり暮らそうと思ったんだよ」
「お父様……」
お母様を亡くした私のことを思って……。
そうですよね。きっと学園にも通いませんでしたし、私に問題があると思われても仕方がありません。
いえ、問題はあるんですよ。世継ぎが産めないという、最大の問題が。
「返事は意外なものだったよ。皇太子殿下は、王位を継ぐ気はないとおっしゃっているそうだ。第二王子に皇太子の地位を譲りたいと主張していると」
第二王子が生まれたのがたしか12年ほど前。なるほど。第二王子がすくすくと育ってきた当たりで、自分が皇太子じゃなくても弟がいるから問題ないと言い始めたということかな。
「資質に問題はないんだよ。今20歳とまだ若いけれど、いくつかの政策の改善点をすでに提案して、それにより税収が増えたり、農民の生活レベルが向上したりしている」
それは聞いたことがある。この先も安泰安泰と、お父様が皇太子殿下を褒めていた。
「問題があるどころか、皇太子の地位を無くすには惜しい才覚を持っている。だからこそ陛下も第二王子にという皇太子の言葉を突っぱねてはいる。だが、一方で、この先どうなるか分からないと思っておいでのようで……」
なぜ皇太子は弟に王位を継いでもらいたいんだろう。
人の上に立ちたくないとか?
そういえば恋愛小説なんかだと、皇太子の立場の王子がその重責に苦悩して、ヒロインの言葉に救われ恋に落ちるとかありましたね。
重責に苦悩してる?逃げ出したいと思っている?でも、すでにいくつも成果を残しているのに?逆に成果を残して期待されすぎて嫌になった?
「だからな、もし、将来王妃になると覚悟して婚約し、長く王妃教育も受けてもらったのに、皇太子が位を弟に譲ってしまったりしたら、迷惑をかけるだろうとリリーへの打診はやめたそうだ」
なるほど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます