第11話

 隣にエミリーが座っていることを想像する。

 うん、エミリーにかわいいもの見せてあげることもできるわよね。それに、エミリーの髪の毛もオレンジだから、きっと映えるわよね。

 あら?

 ドレスを着るのは私よね?エミリーの髪と映えるっていうのも変な言い方よね?

 でも、オレンジ色のドレスを作ってもらえば、ついでに同じ布でリボンとか何か小物も作ってもらえるわよね?

 それをまたプレゼントしましょう。

 エミリー喜んでくれるだろうか?まぁ素敵よ、素敵!と、頬を染めて喜んでくれる姿を想像して、うれしくなる。

 ああ、他にももっと、エミリーに喜んでもらえることってないかしら?

 と、色々と想像していたら、あっという間に時間が過ぎていた。

 兄が私を探してあづまやに現れた。

「ああ、エミリーこんなところにいたのか。探したよ」

 兄と小さいことによく迷路で遊んだので、兄も私がここを知っていることは分かっている。だから、もしかしてと思って探してきてくれたんだろう。

「ごめんなさい。少し気分が悪くなってしまって……」

 嘘ではない。

 そもそも気分が悪くなってここに来たんだもの。ただ、ずっと会場に戻らずにここにいたのは、エミリーのことを考えていたらうっかり時間が過ぎてしまったから。

 そもそもの目的を忘れたわけでは……いえ、忘れてましたけど。でも、今日のドレスでは悪目立ちするそうなんで、今日はやめてよかったんだと思うんです。

「大丈夫かい?ああ、手が赤くなっているじゃないか……!アレルギーが出たんだね!」

 お兄様が私の手首を見て慌てた。

 しまった。手袋をはめるべきだったわ。驚かせてしまったようだ。

「すまない……一緒にいてやれなくて……」

「ふふ、分かってますわ。婚約者のエカテリーゼ様は寂しがり屋なんでしょう?」

 寂しいの。が口癖のご令嬢だと聞いたことがある。

「あ、ああ、そうなんだ。僕がそばにいないと寂しがって、その」

 他の殿方に、婚約者が相手にしてくださらなくて寂しいんですと、涙ながらに訴えるらしい。

 なんというか、男性アレルギーの私からすると、信じられないんですけど。側にずっと誰かいてほしいなんて、考えたこともないので。

 家族でさえ、不用意に触れればアレルギーが出てしまうんですもの。

 よかった。私は寂しがり屋じゃなくて。

 そう、この舞踏会、出会い目的のお見合いのようなものなのに、婚約者のいる者も参加しているのは、それぞれが仲を取り持ったり紹介したりするため。いきなり自分からアプローチできない人も多いので、婚約者のいる方にお世話を頼むのだ。

「今日は、急にお兄様を舞踏会に来るためのエスコートにお借りしてしまったのですから。エカテリーゼ様には申し訳ないことをしてしまったと思っているの」

 お兄様の手が私の頭にのびたけれど手のひらが私の頭に降ろされることはなく、指先で髪の毛にふれた。

「リリーが謝ることないよ。兄妹は助け合う物だろう?それにエカテリーゼも私と結婚すればお前の姉になるんだから」

 そこまでいって、お兄様がちょいとおどけた様子でウインクをした。

「まぁ、埋め合わせにと、新しいドレスをねだられたけどね」

「あ、そうだわ!私も新しいドレスを次の舞踏会までに仕立てたいの!」

 忘れないうちにお兄様にねだっておく。もちろん、お父様にもちゃんとお願いするけれど。お兄様が味方になってくださったほうが話が早い。

「次の舞踏会?こんなに手を真っ赤にしてまで、まだ頑張るのかい?無理しなくていいんだよ?」

 お兄様が驚いた顔を見せる。

 ……そうよね、舞踏会に行きたい理由は、婚約者探しだって思いますよね。というか、違うと知られたら行かせてもらえないなんてことはないですよね?友達に会いたいからなんて……言えば「じゃあ家に招けばいい」とか言われても……。エミリオ……を家に招くことはできない。

 姿が男性だから。

 エミリーと話せば女性だと理解してもらえるかもしれないけれど、エミリーは隠しているわけだし。だから、やっぱり舞踏会でこっそり会うしかない。

 だから私は、舞踏会で婚約者探しをしていると思われてなくちゃならないのよね。というか、ちゃんとそっちも少しだけ頑張る?

 1回につき一人か二人、アレルギーの出方をチェックするくらいはした方がいいのかな。


「なぜだ!リリー!なぜなのだ!」

 お父様が驚愕の声を出した。

 翌日、お父様にもドレスを新調したいと話をした。

 仕立屋を呼んで、まずはデザインの相談から。

 お母様がいないので、本来はあまり男性の家族がデザインを決めるのに立ち会うことはない。けれど、子供が一人で仕立屋とやりとりをするのは大変だろうと亡くなったお母様の代わりにお父様が付き合ってくださっている。

 まずはドレスの色を決めようと、色見本を見せてもらう。

 小さな布の中から、オレンジ色の布をいくつか手に取ったところで、先ほどの父の叫び声が上がったのだ。

「なぜ、オレンジを選ぶんだい?リリー、まさか、まさか、他のご令嬢のように、皇太子殿下の気を引きたくて、オレンジを……」

 ぱくぱくと言葉が続かないお父様。

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