第7話

 ……そうだよね。唯一の理解者のお姉さんは他国へと嫁いでしまい、両親ですら理解してくれないなんて。

 それに比べたら、私は父も兄も私のアレルギーを理解してくれている。

 父だって……本当はもっと無理にでも結婚させることだってできるのに、私のことを思って「平民でも構わない」とまで言ってくれた。

 あ……。

「ねぇ、エミリー、もしかしたらご両親はエミリーのことをとても心配して、貴方が不幸にならないようにと、口を酸っぱくして言っているんじゃないかしら?もしかしたら、本当は認めてあげたいと、そう思っているけれど……。私の父はね、男性アレルギーがあるって知ってるのに、結婚しろっていうのよ?修道院に行きたいって言ったら激怒してしまって……。だけど、きっとそれもお父様は私のことを考えてくださっているのだと思うの……」

 エミリーが私の頭をそっと撫でてくれる。

「そうね。私の両親も、私のことを考えてくれているのよね。って、そんなことよりも、大丈夫なの?リリー、結婚させられるって、男性アレルギーがあるのに……」

 ふふっと笑う。

「あのね、お父様やお兄様は一緒にいても大丈夫だし、少しふれられたくらいならちょっと赤くなってすぐに収まるの。だけど、ほら、この腕をつかんだ人は一緒にいるだけであちこち痒くなるし、捕まれたところは炎症を起こしちゃうし……。人によってアレルギーの出方が違うから、あまりアレルギーが出ない人を探しなさいって。男爵家でも平民でも誰でも構わないとまで言ってくれたのよ?」

「私みたいに、全くアレルギーが出ない男性もいるかもしれないわね」

「何言ってるのよ、エイミーは女性でしょ?アレルギーが全く出ない人がいたら、きっとエイミーと同じよ。見つけたら一番にエイミーに教えるわ!」

 エイミーがくすくすと笑った。

「そうだったわ、私は女だったわね」

 ふと気になって尋ねる。

「エイミーは大丈夫なの?結婚とか……その、必要のない人もいるけれど……」

 男子の場合家を継ぐ人間がいれば、結婚はどうしてもしなければならないというものでもない。次男、三男などだ。

「弟がいるから、跡継ぎは弟にすればいいと言って、のらりくらりとかわしているんだけどね……問題はどうもそこじゃなくて、女みたいな部分が、結婚すれば治るんじゃないかと思っている節があるのよ……だから、結婚させたくて仕方がないみたい」

「そっか、エイミーも大変ね。別に結婚できなくたって全然構わないのになぁ……」

「そうよねぇ~。私はどこかで可愛いものに囲まれて一人で暮らしたいわ。好きな物いっぱい飾って、お姫様みたいな部屋に住みたいの」

「お姫様みたいな部屋って?」

「そうねぇ、例えば、シーツはピンクがいいわ。枕カバーにはたっぷりレースを使って」

「ダメよ、ダメ!枕カバーにレースはダメよ。朝起きて、頬っぺたやおでこにレースのあとがついちゃうから」

「え?そうなの?それはだめだわ。じゃぁ、えっと、そうね、薔薇の花びらをベットに散らすの!とっても素敵じゃないかしら?」

 エミリーの言葉に首を横にふる。

「薔薇の花びらの上には寝れないわよ。寝ている間に花びらが潰れて起きたら悲惨な状態になっているわよ?」

「ああああ、確かに、そうかも。って、もう、リリーったら、乙女の夢を現実で塗りつぶすなんて酷いわ」

 エミリーがすねたような表情を見せる。

「レースをたっぷり使うなら、ベッドカバーと天蓋よ。エミリー想像してみて。フワフワと天蓋が風にゆれるの。それからね、薔薇の花弁は湯船に浮かべた方がいいわ」

 エミリーが両手を顔の前で合わせて、目を輝かせた。

「素敵!なんて素敵なの!一緒に入りたいわね!」

 ニコリと、イケメンが笑った。

「い、一緒に?」

 ビックリして思わず大きな声が出てしまった。

 エミリーは自然に出た言葉だ。心が女性なのだから、私と風呂に入るなんて、別にどうってことのない話で。何も考えずに自然と出た言葉で……。

「あ……えへへ。ごめん。うん、いいの。気にしないで、分かってる。心は女っていっても、体は男だって……。ビックリさせちゃってごめんね……貴族の独身男女が一緒に風呂に入れるわけないのにね。えへへ、言ってみただけだから」

 エミリーに謝らせてしまった。

「う、ううん、誰かと一緒にお風呂に入るってことが無いから……。友達とも、家族とも……」

 エミリーが、ハッとして可愛らしく笑った。

「そういえばそうよね。私も、家族とだって一緒に入らなかったわ。従者に体を洗われることはあっても、基本的には一人ね。寮生活とか集団生活をしない限り誰かと一緒にお風呂に入ることなんてないのね……友達同士でも、入らないわね、確かに……」

 エミリーの言葉にからかうように言葉を続けた。

「ふふ、むしろ、男女で入るのが普通なのかも」

「やっだぁ、もう、リリーったら。おませさんよ、おませさんっ」

 顔を赤くしたエミリーが小さな子がいやいやとするように首を横に振る。

「あー、でも、レースがたぷりあしらわれた天蓋に、薔薇のお風呂……あこがれるわ……」

「ねぇ、薔薇風呂なら花の香りを楽しみたいとか言って用意してみたら?

 ふぅとエミリーがため息をついた。

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