第6話

「エミリーは可愛いって言ってくれたでしょ?それがとても嬉しくて……」

「あら、だって、本当にかわいいんですもの。私、ピンクが一番好き。それに、フリルもレースも大好きなの」

 ニコニコと嬉しそうなエミリーの顔を見るとこちらまで幸せな気持ちになる。

「私も。子供っぽいとか言われるみたいだけれど、ピンクは好き。黒とか赤とか紫とかちょっと怖いのよね」

「あー、分かるわ!黒は悪魔みたいだし、赤は血みたいだし、紫は……んー、そうね、毒虫みたいだもの!」

 エミリーの言葉にうんうんと大きく頷く。

 このんで赤や紫のドレスを着ているご婦人もいるため、今までは誰にも言ったことはなかった。

 私の怖い感情に共感してくれる人がいるなんて!

「オレンジは嫌いじゃないけれど、右を見ても左を見てもオレンジのドレスばかりだと流石に見ていても楽しくないわよね。それに、ちょっと他の色と合わせにくいと思わない?」

 エミリーの言葉に、そういえばオレンジ色のドレスが多かったことを思い出す。

「私、男性アレルギーがあって、舞踏会には顔を出すのは実は何年も前に出た舞踏会以来、2度目で……恥ずかしながら全然流行とか知らないんだけれど、オレンジは流行っているの?」

 私が首をかしげると、エミリーが口をあんぐりとあけた。

「本当に知らないの?理由も、あー、私のことを見ても分からなかっただけじゃなくて、何も知らないの?」

「母も亡くなっているので、流行には本当に疎くて……いえ、男性アレルギーがある限り、舞踏会でダンスを踊ることもないだろうと、あまりドレスに興味がなかったというのが正しいかな」

 エミリーがちょっと悲しそうな表情をする。

「お母様がいらっしゃらないのね……舞踏会に出る出ないは別として、こんなにリリーはかわいいのに、似合うドレスを選んでくれる人もいなかったのね……」

 エミリーの手が私の頬に触れた。

 ピクリと小さく身構える。

 大丈夫だと、アレルギーは出ないと分かっていても、見た目が男の人に触れられることには慣れていない。

 身構えてしまったのがエミリーに伝わったのか、エミリーは慌てて手を引っ込めた。

「あ、あの、かわいいなんて、家族以外に言われたことがなくて、ビックリしちゃって……」

 エミリーは心は女だと。女なのに男みたいだとか思われたなんて聞いたら悲しむだろうと、本当の理由を隠した。

「え?そうなの?こんなにかわいいのに。肌は白くて透けるよう。美しくやわらかなブロンド。長いまつ毛に大きな瞳。サファイアみたいででとても綺麗。サクランボみたいにふっくらした唇もかわいい。もう、食べちゃいたいくらい」

「た、食べ……え?」

「やだ、本当に食べたりしないわよ。それくらいかわいいって話。もう理想よ。私の理想を詰め込んだ女の子って感じ。小柄で顔が小さくて、幼さが残る感じも素敵。ああ、かわいい」

 自然と顔が笑ってしまった。

「ありがとうエミリー。私、学園にも通っていなくて……女友達もほとんどいないからそんなこと言ってもらったのはじめて」

「あら、学園にも通っていないのね?……そうね、ダンスの授業とかどうしても男の子と触れ合う機会があるものね……そう、それでお友達も作れなかったの……」

 まぁ、友達に関しては、公爵家だと、家の格から言って、同じ公爵家か侯爵家のご令嬢あたりということになる。ああ、もしくは王女様だ。別に私の方は、男爵令嬢だろうと、親しくできる方がいれば気にしないんだけど……学園で出会わない限り、家を行き来したりと言った交流を持つに持てない。王女様は私よりも10近く年上ですし、公爵家や侯爵家のご令嬢も王女様と同じくらいの方がほとんどでしたから……。仕方がなかったんですえど。

「私でよければ、友達としてこれからも仲良くしてね。リリーが嫌じゃなければだけれど」

「嫌なわけない、本当に嬉しい。あの、エミリーこそ、嫌じゃない?流行には疎いし、その、女友達との付き合いかたもよく知らないような私なんかで……」

 エミリーが首を大きく横に振った。

「何馬鹿なことを言っているの?むしろ、リリーだから友達になりたいの。私の理想の女の子なんだもの。それに、流行は私が教えてあげるわ!自分では着られないけれど、ドレスは大好きだもの!女友達との付き合い方は私もしらないし……他の人がどうしてるのか分からないけれど、私たちは私たちで楽しめればそれでいわよ」

 そうね。うん、そうだわ。

「きっと、私もリリーも、他の人がいるとこんなふうにしゃべれないだろうし……」

 そう言われればそうね。

「その、エミリーのことを知っているのは、どれだけいるの?」

「一人。姉だけが理解者だったわ。姉はね、スカートが嫌いでズボンが履きたい、刺繍よりも剣が習いたいって人だったの。それで、私のこともよく理解してくれて」

 一人だけなんだ。ていうか、理解者だった?過去形?

「姉と二人だけの時だけは、本当の私になれたのよ。姉が10年前に他国へ嫁いでからは……誰も私を理解してくれる人はいなかったわ」

「誰も?ご両親も?」

 エミリーが複雑そうな表情を浮かべた。

「むしろ、少しでも女性っぽい仕草を見せると、男らしくしなさいと、恥ずかしいと、叱られたわ。そして、決して誰の前でも女みたいな仕草や言葉を見せるなと命じられたの」

 よく見ると、ちょっと悲しそうな顔にも見える。

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